【異世界恋愛】【完結】猫族の底辺調香師ですが 極悪竜王子に拾われました。
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空の上は時間も曖昧だ。雲はゆっくりと流れているのに、漂っているうちに赤い月はついに満月になる寸前だった。
――もうあと数刻もすれば赤い満月の夜がやってくる。でも、もうなにも怖くない。
私達を脅かす痛みはもうやってこない。溢れる多幸感に何度も涙を雲に浮かべてはロルフが舐めて拭ってくれる。竜の鱗は毛繕いできないから少し寂しいな、なんて猫らしいことを考えていたり。
まだ、やらなければならないことが残っている。それでも、空をふたりきりで旅するこの瞬間は、目が合う度に口付けてしまうほど幸せだった。
猫と竜が地上に降り立ったとき、待ち構えていたのは怒気を帯びた顔つきの男達だった。
ニーナは猫の姿のまま竜の背中で体を強ばらせる。
『第二王子……!! その姿はなんだ!? 禁忌の魔法にでも手をだしたんだろう! 汚い奴だ……無能の分際で王妃様を欺いていたのか……!?』
筆頭の、酷い顔でロルフをなじる男の顔には見覚えがあった。あれは二日前に植物園で王妃と何やら意味深な話をしていた従者だった。開口一番から王妃の肩を持つ辺りからその周りも王妃の手の者とみて間違いない。従者も王妃も猫族だ。
――去れ。お前達に勝ち目はない。