baby’s breath(眠れる森の王子は人魚姫に恋をした side story)
鈴木さんと葛城くんに悩みを打ち明けたあの日からひと月ほど経った。義父の暴力は悪化する一方で更にお酒の影響でついには勤め始めた仕事までもできくなりクビになってしまった。母が再婚したころはとても優しくて思いやりのある人物であった為、今とは違って良い思い出が沢山ある。だから無職になり時間を持て余すたびに浴びるようにお酒を飲み続ける義父を見るのはとてもつらかった。そんな義父の姿を見ていられず、お酒を少し控えるように言うとついには私も殴られるようになる。そんな私を見てひたすら母は申し訳ないと謝るのであった。
…お母さんは何も悪くないのに。
母の事は心配だが義父がいる家に帰りたくない日々が続く。
今日は突然、大学の講義が休講になってしまい、バイトの時間まで3時間ほど空いてしまった。
一度家に帰ってからでもバイトは間に合うけれど帰りたくないなぁ…。
義父が仕事を辞めてから母はパートを増やしたので、今帰宅すれば酒臭い父と二人きりになってしまう。母が不在だからこそお酒を飲まない様に見張っていなければならないと思いつつも帰りたくない気持ちが勝ってしまう。
バイト先の休憩室で時間まで勉強すればいいか…。
と思い、バイト先へと向かった。もしお店が忙しいのであれば、そのまま働ければこちらもバイト代が増えて助かる。一度自宅に戻るよりも大学からバイト先の方が近かった。
電車で移動してレストランのある最寄り駅までついたのだが、突然の雷鳴と共に大雨が降りだし、駅から動けなくなってしまった。
直ぐに止むかなぁ…。
雨に濡れないように気をつけながら空の様子を見上げる。
「あれ?香澄ちゃんじゃない?」
声のする方を振り返ると葛城くんが立っていた。相変わらず背が高くて顔だちの良い彼は、周りの女の子からの視線を自然と集めていた。
「葛城くん…。早めにバイト先に行って休憩室で勉強していようと思ったんだけど、傘が無くて…。」
「ふ~ん…。俺、傘持ってるよ。」
「えっ!ほんと?もしかして、これからシフト入ってるの?今からお店!?」
「バイトは夜から。だからまだ行かないよ。」
「そっか…。」
お店まで行くのであれば一緒に傘に入れてもらえるようにお願いしようと思ったのだが、当てが外れた。
普段の葛城くんなら、バイト先に行かずとも『俺の傘貸してあげるよ~』と言いそうなのだが、今日の彼はいつもと違っていた。うまく説明できないが、いつものチャラい雰囲気があまりない。
「俺の家、直ぐそこだから俺んちで勉強すれば?確か、バイトのスタート同じ時間だったよね?」
そう言えば出勤時間同じだったかも…。でも、お邪魔して良いのだろうか…。
「俺、1本しか傘持ってないから香澄ちゃんに貸しちゃうと俺がずぶ濡れになっちゃう。だから、俺の家に来て勉強して一緒に行く方がお互いに良くない?」
確かにそうなのかもしれない…。
「突然お邪魔して迷惑じゃない?」
「香澄ちゃんならいつでも大歓迎だよ。」
そう言うといつものわんこスマイルを見せてきた。葛城くんがズルいのはその笑顔を見せるために、いつも私の視線に合わせてかがんでくれるのだ。つまり、絶対に自分の笑顔の可愛さを知っていての行動なのだ。わかってはいるのだが、彼の優しい笑顔に胸の奥がキュンなり今日もわんこスマイルに負けてしまった。
二人で一つの傘に入り葛城くんの家に向かった。長身の彼が使う傘なので割と大きめなはずなのに距離が近すぎて心臓の音が激しく鳴り響いていた。彼に聞こえてしまうような気がして少し離れるとグっと肩を掴まれ『離れると濡れちゃうよ。』と引き寄せられ、更に心臓の音が大きくなった。
「レストラン以外で一緒にいるの初めてだね。なんか俺、緊張する。ははっ。」
「わたしもです。」
「あ、着いたよ。」
駅から5分も歩いていないのにあっという間に着いてしまった。よく見れば駅直結で有名な高層マンションだった。
「えっ?こんな凄いところに住んでるの?ここなら傘がなくても地下通路使えば済んだんじゃ…。」
「あ~あ、気づいちゃった?香澄ちゃんと相合傘したかったんだ。」
「またそんなこと言って!」
「ほら、早くしないと勉強する時間なくなっちゃうよ?」
そう言うと私の手を引き笑顔でマンションの中に入っていった。
…お母さんは何も悪くないのに。
母の事は心配だが義父がいる家に帰りたくない日々が続く。
今日は突然、大学の講義が休講になってしまい、バイトの時間まで3時間ほど空いてしまった。
一度家に帰ってからでもバイトは間に合うけれど帰りたくないなぁ…。
義父が仕事を辞めてから母はパートを増やしたので、今帰宅すれば酒臭い父と二人きりになってしまう。母が不在だからこそお酒を飲まない様に見張っていなければならないと思いつつも帰りたくない気持ちが勝ってしまう。
バイト先の休憩室で時間まで勉強すればいいか…。
と思い、バイト先へと向かった。もしお店が忙しいのであれば、そのまま働ければこちらもバイト代が増えて助かる。一度自宅に戻るよりも大学からバイト先の方が近かった。
電車で移動してレストランのある最寄り駅までついたのだが、突然の雷鳴と共に大雨が降りだし、駅から動けなくなってしまった。
直ぐに止むかなぁ…。
雨に濡れないように気をつけながら空の様子を見上げる。
「あれ?香澄ちゃんじゃない?」
声のする方を振り返ると葛城くんが立っていた。相変わらず背が高くて顔だちの良い彼は、周りの女の子からの視線を自然と集めていた。
「葛城くん…。早めにバイト先に行って休憩室で勉強していようと思ったんだけど、傘が無くて…。」
「ふ~ん…。俺、傘持ってるよ。」
「えっ!ほんと?もしかして、これからシフト入ってるの?今からお店!?」
「バイトは夜から。だからまだ行かないよ。」
「そっか…。」
お店まで行くのであれば一緒に傘に入れてもらえるようにお願いしようと思ったのだが、当てが外れた。
普段の葛城くんなら、バイト先に行かずとも『俺の傘貸してあげるよ~』と言いそうなのだが、今日の彼はいつもと違っていた。うまく説明できないが、いつものチャラい雰囲気があまりない。
「俺の家、直ぐそこだから俺んちで勉強すれば?確か、バイトのスタート同じ時間だったよね?」
そう言えば出勤時間同じだったかも…。でも、お邪魔して良いのだろうか…。
「俺、1本しか傘持ってないから香澄ちゃんに貸しちゃうと俺がずぶ濡れになっちゃう。だから、俺の家に来て勉強して一緒に行く方がお互いに良くない?」
確かにそうなのかもしれない…。
「突然お邪魔して迷惑じゃない?」
「香澄ちゃんならいつでも大歓迎だよ。」
そう言うといつものわんこスマイルを見せてきた。葛城くんがズルいのはその笑顔を見せるために、いつも私の視線に合わせてかがんでくれるのだ。つまり、絶対に自分の笑顔の可愛さを知っていての行動なのだ。わかってはいるのだが、彼の優しい笑顔に胸の奥がキュンなり今日もわんこスマイルに負けてしまった。
二人で一つの傘に入り葛城くんの家に向かった。長身の彼が使う傘なので割と大きめなはずなのに距離が近すぎて心臓の音が激しく鳴り響いていた。彼に聞こえてしまうような気がして少し離れるとグっと肩を掴まれ『離れると濡れちゃうよ。』と引き寄せられ、更に心臓の音が大きくなった。
「レストラン以外で一緒にいるの初めてだね。なんか俺、緊張する。ははっ。」
「わたしもです。」
「あ、着いたよ。」
駅から5分も歩いていないのにあっという間に着いてしまった。よく見れば駅直結で有名な高層マンションだった。
「えっ?こんな凄いところに住んでるの?ここなら傘がなくても地下通路使えば済んだんじゃ…。」
「あ~あ、気づいちゃった?香澄ちゃんと相合傘したかったんだ。」
「またそんなこと言って!」
「ほら、早くしないと勉強する時間なくなっちゃうよ?」
そう言うと私の手を引き笑顔でマンションの中に入っていった。