baby’s breath(眠れる森の王子は人魚姫に恋をした side story)
side:将文
「香澄ちゃん、そろそろ支度しないとバイト遅れるよ。」
俺の腕の中で眠る彼女をずっと眺めていたかったが、残念ながらタイムリミットだ。
サラサラな髪を撫でながらキスをして起こす。
「…ん。私、寝ちゃってたんだ。」
「初めてだから疲れたんじゃない?」
「そうなのかなぁ…。まだ…、変な感じがする。」
頬を赤らめながら返事をする姿に愛しさが増す。
「香澄、一緒にシャワー浴びよう。」
「ひゃっ!」
恥ずかしがる彼女を毛布に包み、そのまま抱きかかえ浴室へと向かった。
「葛城くん…、重いでしょ?自分で歩けるから…。」
「俺たち両思いなのに何で苗字呼びのままなの?」
頬を少し膨らませていじけた顔を見せてやった。この顔をすると香澄は大抵いつも言うことを聞いてくれるのを知っている。
「えっ?……じゃあ、年上だから呼び捨ては何か嫌だし…、将くん、とか?」
「なんかその呼び方、彼女っぽくてイイね。」
初めて俺が香澄と出会ったのはバイトの面接の時だった。アメリカの大学に行ったっきり日本に戻らない俺に親父がしびれを切らしてアクアリゾートの後継者として帰国させたが、『自社以外に一度は働いて社会経験を積むべきだ。』と放りだされた。たまたま通りかかったレストランの入り口にアルバイト募集の張り紙がしてありそのまま飛び込んだのだ。
「アルバイトの応募ですね?店長を呼んできますので少々お待ちください。」
小柄な香澄は俺の胸の下あたりでちょこまかと忙しなく動いていて人間版ハムスターかと思うくらい可愛くて自然と笑みがこぼれた。
…なんだこの可愛い生き物は。
店の隅っこで店長と面接をしている間も店長を通り越して彼女だけを目で追っていた。
第一印象は単純に愛らしいペットを見ている感覚だった。しかし、義父の暴力から母親を守るために頑張っている姿に感動し、彼女の小さな体に秘めた芯の強さに魅力を感じ、ズブズブと底なし沼にはまっていくように心を奪われていった。
「……俺の彼女ってなんであんなに可愛いんだろぉ?」
ホールでオーダーを取る香澄を見つめながら漏れた俺の心の声が食器を下げてきた鈴木さんに聞こえてしまった。
「はっ!?キモっ!妄想ばっかしてないで働きなよ。」
駄目だ。顔のニヤけが止まらない。
「それが妄想じゃないんだなぁ〜。」
「オーダー入りましたー!」
さらに顔を緩ませていると香澄がキッチンに併設するバックヤードに入ってきたので、オーダーを伝え終わった香澄を呼び寄せる。
「鈴木さん、俺たち付き合う事になったんです。」
「はっ!?マジで言ってるの??」
呼び寄せた香澄を後ろからぎゅっと抱きしめながら報告した。
「おい、バイト中にいちゃつくな!久保田さんが苦しがってるってば!セクハラ男めっ!」
「俺だけはセクハラにならないんですぅ!彼氏なんでっ!!!」
自慢するかの様にドヤ顔で言ってやった。
「久保田さん!ホントなのっ!?」
香澄は照れて耳まで真っ赤にしながらこくりとうなずいた。
「マジっ!?久保田さん、いい年してフリーターしてるやつなんて止めておきな!久保田さんにはもっと良い男がいるって!!」
「あー…、鈴木さん、俺って何気に結構、優良物件っすよ!」
このレストランの人たちは俺がアクアリゾートの社長の息子だとは知らない。きっと聞いたら驚くだろうし、態度を変えられるのが嫌で特に話していなかった。
「優良物件はこんなところでバイトなんかしてないからっ!まぁ…見た目だけは確かに優良なんだけどねー。」
「…そんな、見た目だけじゃないです。お義父さんに殴られた時も手当てしてくれたり、いざという時に母と二人で逃げ出せるようにいろんな施設を調べてくれたり…。とても頼りにしてます。」
香澄にはいつも驚かされる。普段は大人しいくせに、言うべきところできちんと発言ができるのだ。今回も照れと恥ずかしさで笑ってごまかすと思いきや、『とても頼りにしてます。』と言われて俺はすっかり舞い上がってしまった。
俺の腕の中で眠る彼女をずっと眺めていたかったが、残念ながらタイムリミットだ。
サラサラな髪を撫でながらキスをして起こす。
「…ん。私、寝ちゃってたんだ。」
「初めてだから疲れたんじゃない?」
「そうなのかなぁ…。まだ…、変な感じがする。」
頬を赤らめながら返事をする姿に愛しさが増す。
「香澄、一緒にシャワー浴びよう。」
「ひゃっ!」
恥ずかしがる彼女を毛布に包み、そのまま抱きかかえ浴室へと向かった。
「葛城くん…、重いでしょ?自分で歩けるから…。」
「俺たち両思いなのに何で苗字呼びのままなの?」
頬を少し膨らませていじけた顔を見せてやった。この顔をすると香澄は大抵いつも言うことを聞いてくれるのを知っている。
「えっ?……じゃあ、年上だから呼び捨ては何か嫌だし…、将くん、とか?」
「なんかその呼び方、彼女っぽくてイイね。」
初めて俺が香澄と出会ったのはバイトの面接の時だった。アメリカの大学に行ったっきり日本に戻らない俺に親父がしびれを切らしてアクアリゾートの後継者として帰国させたが、『自社以外に一度は働いて社会経験を積むべきだ。』と放りだされた。たまたま通りかかったレストランの入り口にアルバイト募集の張り紙がしてありそのまま飛び込んだのだ。
「アルバイトの応募ですね?店長を呼んできますので少々お待ちください。」
小柄な香澄は俺の胸の下あたりでちょこまかと忙しなく動いていて人間版ハムスターかと思うくらい可愛くて自然と笑みがこぼれた。
…なんだこの可愛い生き物は。
店の隅っこで店長と面接をしている間も店長を通り越して彼女だけを目で追っていた。
第一印象は単純に愛らしいペットを見ている感覚だった。しかし、義父の暴力から母親を守るために頑張っている姿に感動し、彼女の小さな体に秘めた芯の強さに魅力を感じ、ズブズブと底なし沼にはまっていくように心を奪われていった。
「……俺の彼女ってなんであんなに可愛いんだろぉ?」
ホールでオーダーを取る香澄を見つめながら漏れた俺の心の声が食器を下げてきた鈴木さんに聞こえてしまった。
「はっ!?キモっ!妄想ばっかしてないで働きなよ。」
駄目だ。顔のニヤけが止まらない。
「それが妄想じゃないんだなぁ〜。」
「オーダー入りましたー!」
さらに顔を緩ませていると香澄がキッチンに併設するバックヤードに入ってきたので、オーダーを伝え終わった香澄を呼び寄せる。
「鈴木さん、俺たち付き合う事になったんです。」
「はっ!?マジで言ってるの??」
呼び寄せた香澄を後ろからぎゅっと抱きしめながら報告した。
「おい、バイト中にいちゃつくな!久保田さんが苦しがってるってば!セクハラ男めっ!」
「俺だけはセクハラにならないんですぅ!彼氏なんでっ!!!」
自慢するかの様にドヤ顔で言ってやった。
「久保田さん!ホントなのっ!?」
香澄は照れて耳まで真っ赤にしながらこくりとうなずいた。
「マジっ!?久保田さん、いい年してフリーターしてるやつなんて止めておきな!久保田さんにはもっと良い男がいるって!!」
「あー…、鈴木さん、俺って何気に結構、優良物件っすよ!」
このレストランの人たちは俺がアクアリゾートの社長の息子だとは知らない。きっと聞いたら驚くだろうし、態度を変えられるのが嫌で特に話していなかった。
「優良物件はこんなところでバイトなんかしてないからっ!まぁ…見た目だけは確かに優良なんだけどねー。」
「…そんな、見た目だけじゃないです。お義父さんに殴られた時も手当てしてくれたり、いざという時に母と二人で逃げ出せるようにいろんな施設を調べてくれたり…。とても頼りにしてます。」
香澄にはいつも驚かされる。普段は大人しいくせに、言うべきところできちんと発言ができるのだ。今回も照れと恥ずかしさで笑ってごまかすと思いきや、『とても頼りにしてます。』と言われて俺はすっかり舞い上がってしまった。