baby’s breath(眠れる森の王子は人魚姫に恋をした side story)
「葛城様、お荷物を預かっております。」

親父の会社から戻るとマンションのエントランスでコンシェルジュに声を掛けられた。バイトを始めてから半年が過ぎたのでそろそろ戻って来いと親父に呼ばれたのだ。

「…やっと届いたか。」

アメリカに居たころ、ヨーロッパ出身の友人からfloride(フローリデ)というジュエリー工房の話を聞いたことがあった。そこの工房で作られたアクセサリを身に着けていると必ず幸せになれるという話だった。その話を思い出し、絶対に香澄にプレゼントすると決めてた。しかし、その工房は既製品を作らず、紹介でないとオーダーを受けてくれないという七面倒な工房だった。親父や金持ち仲間の使えるコネを全て使ってやっと手に入れることができたのだ。安易だが香澄の名前からカスミ草をモチーフにしたデザインのブレスレットをオーダーした。素材にもかなりのこだわりを持つようで新入社員の年収を超える値段だったが、こんなアクセサリー一つで香澄に幸せがやってくるならば、大した金額とは思わなかった。

「香澄、これ…。」

「なに?」

バイトの前は俺の家に来て一緒に過ごすことが俺たちの日課になっていた。さっきコンシェルジュから受け取ったブレスレットをケースのまま渡した。特にギフト包装はされていないが革張りの箱にはシンプルにflorideと焼き印が押されていた。

「綺麗…。」

ゆっくりと箱を開け、ブレスレットを取り出して香澄は呟いた。

「気に入らなければ売ってしまっていいよ。石は本物だから売ればいい金額になると思う…。」

女の子にアクセサリーなんてプレゼントなんてしたことが無い俺は、照れ隠しで『売ってしまえばいい』なんて事をつい口から出てしまったが、一生大切にして持っていて欲しいというのが本音だ。

「ありがとう。すごく嬉しい。でも、誕生日でもないのに何で?」

「そっ…、そのブレスレット身に着けてると幸せになれるんだって。ヨーロッパの友達が言ってたんだ。だから…そのぉ…、香澄には幸せになって欲しいから…。」

「将、大好き!」

そう言うと、ブレスレットを付けた香澄は抱き着いてきたので、優しく抱きしめ返す。
俺の胸の中で飛び切りの笑顔を見せる香澄が可愛いすぎて一生彼女の側にいたいと思った。

 …あぁ。

 好き過ぎて死ぬかも…。

香澄とつい会い始めて3か月たち、俺たちの関係は順調に育んでいると思っていた。しかし、この数週間後、香澄と完全に連絡が取れなくなり、それっきり会うことはなかった。
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