baby’s breath(眠れる森の王子は人魚姫に恋をした side story)
side:香澄
バイトから家に帰る直前、将くんからもらったブレスレットを腕からはずすとケースにもどして鞄の底の方にしまった。
最近の義父は本当に手が付けられない状態で、このブレスレットも義父の目に止まったならば、取り上げられて直ぐにどこかへ売られてしまうだろう。ただの願掛けに過ぎないかもしれないが、将くんが私の幸せを思って買ってくれたブレスレットは絶対に義父に取られたくなかった。
「ただいまぁ~。」
母が仕事から戻っているはずなのに部屋は真っ暗で返事がない。友人から仕事を紹介してもらうと言いながら、義父はどこかへ飲みに行ったのだろう。
「お母さん?」
部屋の奥へと進んだ足の指先に何かが触れた。
…えっ?なに?
電気をつけると足元にお母さんがうつ伏せに倒れていた。
「お母さん!!!しっかりして!!!」
呼吸もしているし脈はある。しかし、何度呼びかけても返事が返ってこない。
カバンから急いで携帯を取り出して救急車を呼んだ。
サイレンが鳴り響く車内から前を見ると渋滞していたはずの車列が二つに分かれていくのが見える。自宅から電車とバスを乗り継いで普段なら1時間かかる大学病院も数分で着いてしまった。
病院に到着すると直ぐに検査を行う為に、母はストレッチャーに乗せられたまま病院の奥へと運ばれたまま、なかなか戻ってこなかった。
救急用の待合室で一人座っているとネガティブな事しか頭に浮かんでこない。
…もし、このままお母さんの意識が戻らなかったら。
不安で胸が押しつぶされた様な感覚になり、じわじわと目に涙が溜まるがそれが零れ落ちない様に必死にこらえていた。一緒に病院に付き添いで来たものの、なにかする事もできる事もなく、ただ、ジッとしていられずに落ち着きなくうろうろと廊下に立っていた。
「香澄っ!」
「将…くん。」
病院に着いたあと母が倒れたことで不安のあまり将くんに連絡をしていた。
母の両親はとっくに他界し、連絡する兄弟も親戚もいない。だから、あんな風になってしまった義父であっても人恋しさのあまり離れられず、離婚せずに依存してしまっていたのかもしれない。
「お母さんの容体は?」
「まだ、検査中で…。」
将くんは震える私の手を取ると椅子に座らせ、横に自分も座った。
「お義父さんとは連絡取れた?」
「何度か携帯に連絡入れているんだけど…。まぁ、連絡が取れたとしてもあの人酔っぱらっていて役に立たないから…。」
「そっか…。きっと、お母さんは大丈夫だよ。」
将くんはそう言って私を励ますとお母さんの検査が終わるまで手を握ったまま一緒に待合室のソファーに座ってくれた。
検査の結果、病気による以上は無く、頭をぶつけたことによる脳震盪だと言われた。しかし、医者からは当然、お母さんの体中にあるDVによるあざについて質問され、看護師さんから念のためにとDVシェルターのリーフレットを渡された。頭をぶつけた原因はお義父さんによるDVなのか過労で倒れてぶつけたかは不明だそうで、母の意識が戻るまで経過観察の為にこのまま入院となった。
私はまだ学生だが成人済みなので、家を出れば義父からのDVは逃れられるだろう。しかし、母はきっとそう簡単にいかない。何よりも母が義父との離婚を望んでいないのだ。義父が暴力を繰り返すようになってから、既に何度も離婚については考えるように勧めていたが、愛なのか依存なのか離婚はしないとはっきり言われていた。
「ねぇ、香澄。今晩、うちに泊まらない?もし、今晩お義父さんが帰ってきたら香澄と二人きりになるんだろ?暴力を振るう男と二人きりになんかさせられない。」
「…そうだね。私もあんな人と二人きりだなんて嫌だわ。お邪魔しようかな…。」
入院の手続きを終わらせると将くんのマンションへと向かった。
最近の義父は本当に手が付けられない状態で、このブレスレットも義父の目に止まったならば、取り上げられて直ぐにどこかへ売られてしまうだろう。ただの願掛けに過ぎないかもしれないが、将くんが私の幸せを思って買ってくれたブレスレットは絶対に義父に取られたくなかった。
「ただいまぁ~。」
母が仕事から戻っているはずなのに部屋は真っ暗で返事がない。友人から仕事を紹介してもらうと言いながら、義父はどこかへ飲みに行ったのだろう。
「お母さん?」
部屋の奥へと進んだ足の指先に何かが触れた。
…えっ?なに?
電気をつけると足元にお母さんがうつ伏せに倒れていた。
「お母さん!!!しっかりして!!!」
呼吸もしているし脈はある。しかし、何度呼びかけても返事が返ってこない。
カバンから急いで携帯を取り出して救急車を呼んだ。
サイレンが鳴り響く車内から前を見ると渋滞していたはずの車列が二つに分かれていくのが見える。自宅から電車とバスを乗り継いで普段なら1時間かかる大学病院も数分で着いてしまった。
病院に到着すると直ぐに検査を行う為に、母はストレッチャーに乗せられたまま病院の奥へと運ばれたまま、なかなか戻ってこなかった。
救急用の待合室で一人座っているとネガティブな事しか頭に浮かんでこない。
…もし、このままお母さんの意識が戻らなかったら。
不安で胸が押しつぶされた様な感覚になり、じわじわと目に涙が溜まるがそれが零れ落ちない様に必死にこらえていた。一緒に病院に付き添いで来たものの、なにかする事もできる事もなく、ただ、ジッとしていられずに落ち着きなくうろうろと廊下に立っていた。
「香澄っ!」
「将…くん。」
病院に着いたあと母が倒れたことで不安のあまり将くんに連絡をしていた。
母の両親はとっくに他界し、連絡する兄弟も親戚もいない。だから、あんな風になってしまった義父であっても人恋しさのあまり離れられず、離婚せずに依存してしまっていたのかもしれない。
「お母さんの容体は?」
「まだ、検査中で…。」
将くんは震える私の手を取ると椅子に座らせ、横に自分も座った。
「お義父さんとは連絡取れた?」
「何度か携帯に連絡入れているんだけど…。まぁ、連絡が取れたとしてもあの人酔っぱらっていて役に立たないから…。」
「そっか…。きっと、お母さんは大丈夫だよ。」
将くんはそう言って私を励ますとお母さんの検査が終わるまで手を握ったまま一緒に待合室のソファーに座ってくれた。
検査の結果、病気による以上は無く、頭をぶつけたことによる脳震盪だと言われた。しかし、医者からは当然、お母さんの体中にあるDVによるあざについて質問され、看護師さんから念のためにとDVシェルターのリーフレットを渡された。頭をぶつけた原因はお義父さんによるDVなのか過労で倒れてぶつけたかは不明だそうで、母の意識が戻るまで経過観察の為にこのまま入院となった。
私はまだ学生だが成人済みなので、家を出れば義父からのDVは逃れられるだろう。しかし、母はきっとそう簡単にいかない。何よりも母が義父との離婚を望んでいないのだ。義父が暴力を繰り返すようになってから、既に何度も離婚については考えるように勧めていたが、愛なのか依存なのか離婚はしないとはっきり言われていた。
「ねぇ、香澄。今晩、うちに泊まらない?もし、今晩お義父さんが帰ってきたら香澄と二人きりになるんだろ?暴力を振るう男と二人きりになんかさせられない。」
「…そうだね。私もあんな人と二人きりだなんて嫌だわ。お邪魔しようかな…。」
入院の手続きを終わらせると将くんのマンションへと向かった。