離縁するのじゃ、夫様!──離縁前提婚の激重陛下が逃がしてくれず、結局ズブズブ愛され王妃に君臨するまで─
「ヨハンは、ジェニットとどういう仲かの?親し気に見えるが恋人には見えん」
「恋人なんて滅相もない。お嬢様には返しきれない恩義があります」
ザラが足について深く話したくないことを察して、ヨハンは話題に乗った。彼は洞察力に優れており、まだ出会ったばかりの患者に深入りはご法度だとわきまえていた。
「俺は子どもの頃に、お嬢様に拾っていただきました」
ヨハンは痛み止めの薬を用意する手を動かして、話を続ける。患者とじっくり関係を築いていくためには、まず自分から情報開示しなくてはいけない。ヨハンは聡明な医師だった。
「前ハミルトン領主であるお嬢様のお父上に、素晴らしい教育も与えてもらいました」
「ジェニットもヨハンも、良い教育を受けたことがよくわかる」
明るく朗らかで頭の回転が速いジェニットと、穏やかで人に寄り添う気持ちがある聡明な医師のヨハン。
しっかり教育を与え、優しく賢い人物を育て上げたジェニットの父は尊敬に値する人物だとザラは認定した。
「そう言ってもらえると嬉しいです。返せないほどの恩義なので、俺は死ぬまでハミルトン領に尽くすと誓っています」