月と太陽
予想もしないスキャンダル
雲ひとつない空にスズメが2羽飛んで行く。
今朝も平和な1日が始まるんだろうと期待した所に一本の電話が入った。
ドアにかけていたopenの看板がガタンとズレる。
「え?う、嘘?裕樹さん、朝からそんな冗談やめてもらっても良いですか?」
さとしのスマホに着信が来た名前は裕樹の名前だった。
芸能界から退けた宮島夫婦は、裕樹が大黒柱として仙台の保険会社の営業事務員として働き始め、2人育児を専念するために専業主婦として落ち着きを見せていた花鈴。
そんなのんびりした朝にテレビのスイッチをつけると、SATOSHIのスキャンダルで番組が盛り上がりを見せていた。
公表していないはずの結婚と子どもがいること、そして、出産直後の浮気か?の文字と、車に乗ってるくるみとさとしのツーショットの写真が雑誌に載っていると言う話だった。
コメンテーターの人が
「奥さんは妊娠と出産で、男の人は我慢することが多いですからね~。」
なんて、肯定するようなことを言っていて、SNSではすぐバッシングを浴びていた。
不倫最悪、奥さんかわいそうなどとTwitterなどで、コメントされている。
「さとしくん、気持ちはわからないことはないけどさ、警戒しなさすぎるでしょう!」
「すいません。なんの弁明の余地もないっす。」
小さくなるさとし。
「…さとしくん、1番傷つくのは紗栄ちゃんだよ。しっかり向き合って話し合いするんだぞ。」
「はい。わかってますよ。」
通話終了すると大きなため息をついた。
玄関掃除を終えて、お店の中に入る。
まだバイトのスタッフは来ていない時間。
1人でブツブツと言いながら、テーブルの上に上がった椅子を一つ一つおろす作業をしていた。
遼平は、仕込みの準備に追われるため、いつも早朝出勤していた。
カウンターからホールをのぞくと、背中をどよんと暗くさせたさとしが見えた。遼平は作業しながら、何があったんだろうと心配する。
早朝から出勤していたため、スマホニュースやテレビニュースを見る暇もなかった遼平は騒動に気づいていない。
「さとしさん、何かあったんですか? 」
「いやぁ、もう。何かのほどのレベルじゃないよね。このお店の存続を断つ勢いかもしんないわ。」
「???」
状況を読めない遼平は頭に疑問符を浮かべる。
その頃、2階で陸斗をあやしながら、テレビをつけた紗栄。
朝のワイドショーで世の中が平和すぎるのか、SATOSHIの結婚、不倫騒動がどのチャンネルでも放送されていた。
「ありゃりゃ・・・パパがテレビに出っぱなしですね~。有名人ですねー。」
陸斗を抱っこしながら、ほっぺたをツンツンした。笑顔でキャキャ喜んでいる。
「テレビ越しより生で接したいよね、陸斗。ちょっと待っててねー。」
紗栄はテレビの内容を見ても驚かなかった。
昔からモテモテ男なんだからなんもないのもおかしいって逆に変だと思っていた。
嫉妬はもちろんするけども、もちろん自分側の落ち度はあっただろうと咎めなかった。
今はそれより何より、陸斗をお世話していることで満足していた。
陸斗を抱っこしながら、遼平とさとしのいるキッチンに降りていく。
「陸斗~ほら、パパが近くにいるよー。あ、間違った。こっちだ。」
遼平とさとしが近くにいたため、危なくまた遼平に陸斗を預けようとした。
「おいおい。俺はこっちだって。陸斗ー、あっぷっぷー。」
口を大きく膨らませて、変な顔をさせる。陸斗は喜んでキャキャ笑っている。
子どもの前では切り替えて、いつもの自分に戻れた。
「授乳は? 終わったの?」
陸斗の抱っこをするとゆらゆら優しく揺らした。
まだ首が座っていないため、高い高いが出来ないのが残念だった。
「あげたばかりだから、お腹いっぱいかな。オムツも交換したばかりだけど…。不意打ちに濡れてるときあるから。」
「そっか、んじゃ今はご機嫌か。」
遼平は、その2人の姿を見て、微笑ましかった。
「何か、良いっすね。俺もいつかはお世話するんかな?想像できない…。」
「いや、その前に結婚だろ。」
「うん、そうなんすけどね。自信ないわ…。」
遼平は腕を組んで考えて落ち込む。
「騒動になっている俺が言うのもなんだけどさ、くるみちゃんは遼平にとってどうなんだよ。」
「へ?騒動ってなんですか。まぁ、くるみは大学時代からずっと今まで付き合ってきましたけど、あいつ…結構俺に隠していることが多くて信じてない部分あるんですけど、何か、放っておけなくて…。何ですかね。別れてもいいって思ってても繋がってるこの感じ。」
「俺も、紗栄と付き合い長いけど、一時的に離れても戻ったのね。そういうの縁というか、必ず戻る縁も存在すると思うんだよね。自分にとって必要な人は、どんなことがあっても一緒にいる。そういうもんかなと……。というか、遼平」
さとしは、陸斗を紗栄に戻して、床に土下座した。
「ごめん。くるみちゃんに手出してしまったこと申し訳ないと思っている。俺もどうかしてた。」
遼平は、そっと土下座するさとしに顔をあげてと体を起こそうとする。
「…くるみ、さとしさんに…。逆にご迷惑かけてすいません。わかっているんです。俺も、くるみってあっち行ったりこっち行ったりしてるって噂とか聞いてるんで、その話聞いても全然驚かないんですが…でも謝ってくれる男性に会えたのは初めてっす。俺が悪いのかもしれないし、紗栄さんと一緒にいるって聞いて、くるみは許せかったかも。」
(自分もさとしさんに謝らないといけないことしてるし…。)
遼平は、紗栄に目配せした。
(確かに私も何も責められない。)
「…くるみちゃん、遼平のことすごく気にしてた。大事なんだと思う。」
「そうなんですね。今度、会った時、真剣にくるみと向き合ってみようと思います。ありがとうございます。」
手をのばし、さとしの体を起こした。
「よし、今日もお仕事頑張りますか!!」
遼平が頷くと、裏口からバイトの2人が入ってきた。
「おはようございます!」
「おはよございます。店長!表の張り紙見ました?」
SNSから広がった噂がもうこのお店まで広がったようで、不倫SATOSHI、最悪SATOSHIなどと誹謗中傷がいろいろ書かれた紙が表玄関に貼られていた。
「え? 騒動ってそういうことすか?ニュース見てないからわからなかった。紗栄さん、知ってました?」
「さっきテレビでいろいろやってたけど…。世の中、イジワルしたくなる人もいるんだね。電話もイタズラ多かったからさっき回線ブッチしてたけどね。どうしようね、この騒動。当事者は何も思ってないのにあることないこと外野はうるさいよね。」
冷めたような言い草で紗栄はブツブツ言う。その感情を読み取ったのか怖いと感じた陸斗は火がついたように泣き始めた。
遼平は改めて、ネットニュースの写真を見た。車に乗ったさとしとくるみが映った写真が出回っていた。
こんなうまい具合に綺麗に撮れるかっていうのが疑問だった。
きっとくるみが雇ったカメラマンじゃないかと憶測した。
予想は的中したらしく、くるみに問い詰めると、写真のデータを売ってお金になることを企んでいた。
まんまとくるみに騙された形のさとし。
きっかけは遼平に対する嫉妬から始まったが、お金になることに気づいたくるみは絶好のチャンスだと見逃さなかった。
しばらくこの騒動は収まりそうになかった。
さとしの今まで撮影してきたCM は打ち切りとなり、これから予定していた出演オファーもすべてキャンセルされた。
多額の違約金が発生していた。
坂本社長は自分自身も演者として気持ちはわかっていたが、ここまでの被害だとは分からず、しばらくはほとぼりがさめるまで東京の仕事は休みとなった。
カフェは騒動があってからか、閑古鳥が無くくらい、お客さんは全然来なくなってしまった。
名前を知られてる以上、騒動や事件を起こせば、リスクが伴う。
バイトを雇うほどじゃないお客さんの数にアルバイトとして雇っていた4人は違うところで働くと次々とやめていった。
残ったのは、
さとしと遼平と紗栄の3人。
本当にお店の存続の危機に達していた。
ガラガラのお店のホールで、3人はぼーっと座っていた。
紗栄は首が座ってきた陸斗を優しく高い高いさせてみた。
陸斗が生まれてから2ヶ月が経とうとしている。
落ちるところまで落ちた気がしたさとし。お店のローンはまだまだ残っている。
これから子育てをやらなくてはいけないし、仕事だって今からがエンジンかかるときのはずだった。
いつ路頭に迷ってもおかしくはなかった。
今朝も平和な1日が始まるんだろうと期待した所に一本の電話が入った。
ドアにかけていたopenの看板がガタンとズレる。
「え?う、嘘?裕樹さん、朝からそんな冗談やめてもらっても良いですか?」
さとしのスマホに着信が来た名前は裕樹の名前だった。
芸能界から退けた宮島夫婦は、裕樹が大黒柱として仙台の保険会社の営業事務員として働き始め、2人育児を専念するために専業主婦として落ち着きを見せていた花鈴。
そんなのんびりした朝にテレビのスイッチをつけると、SATOSHIのスキャンダルで番組が盛り上がりを見せていた。
公表していないはずの結婚と子どもがいること、そして、出産直後の浮気か?の文字と、車に乗ってるくるみとさとしのツーショットの写真が雑誌に載っていると言う話だった。
コメンテーターの人が
「奥さんは妊娠と出産で、男の人は我慢することが多いですからね~。」
なんて、肯定するようなことを言っていて、SNSではすぐバッシングを浴びていた。
不倫最悪、奥さんかわいそうなどとTwitterなどで、コメントされている。
「さとしくん、気持ちはわからないことはないけどさ、警戒しなさすぎるでしょう!」
「すいません。なんの弁明の余地もないっす。」
小さくなるさとし。
「…さとしくん、1番傷つくのは紗栄ちゃんだよ。しっかり向き合って話し合いするんだぞ。」
「はい。わかってますよ。」
通話終了すると大きなため息をついた。
玄関掃除を終えて、お店の中に入る。
まだバイトのスタッフは来ていない時間。
1人でブツブツと言いながら、テーブルの上に上がった椅子を一つ一つおろす作業をしていた。
遼平は、仕込みの準備に追われるため、いつも早朝出勤していた。
カウンターからホールをのぞくと、背中をどよんと暗くさせたさとしが見えた。遼平は作業しながら、何があったんだろうと心配する。
早朝から出勤していたため、スマホニュースやテレビニュースを見る暇もなかった遼平は騒動に気づいていない。
「さとしさん、何かあったんですか? 」
「いやぁ、もう。何かのほどのレベルじゃないよね。このお店の存続を断つ勢いかもしんないわ。」
「???」
状況を読めない遼平は頭に疑問符を浮かべる。
その頃、2階で陸斗をあやしながら、テレビをつけた紗栄。
朝のワイドショーで世の中が平和すぎるのか、SATOSHIの結婚、不倫騒動がどのチャンネルでも放送されていた。
「ありゃりゃ・・・パパがテレビに出っぱなしですね~。有名人ですねー。」
陸斗を抱っこしながら、ほっぺたをツンツンした。笑顔でキャキャ喜んでいる。
「テレビ越しより生で接したいよね、陸斗。ちょっと待っててねー。」
紗栄はテレビの内容を見ても驚かなかった。
昔からモテモテ男なんだからなんもないのもおかしいって逆に変だと思っていた。
嫉妬はもちろんするけども、もちろん自分側の落ち度はあっただろうと咎めなかった。
今はそれより何より、陸斗をお世話していることで満足していた。
陸斗を抱っこしながら、遼平とさとしのいるキッチンに降りていく。
「陸斗~ほら、パパが近くにいるよー。あ、間違った。こっちだ。」
遼平とさとしが近くにいたため、危なくまた遼平に陸斗を預けようとした。
「おいおい。俺はこっちだって。陸斗ー、あっぷっぷー。」
口を大きく膨らませて、変な顔をさせる。陸斗は喜んでキャキャ笑っている。
子どもの前では切り替えて、いつもの自分に戻れた。
「授乳は? 終わったの?」
陸斗の抱っこをするとゆらゆら優しく揺らした。
まだ首が座っていないため、高い高いが出来ないのが残念だった。
「あげたばかりだから、お腹いっぱいかな。オムツも交換したばかりだけど…。不意打ちに濡れてるときあるから。」
「そっか、んじゃ今はご機嫌か。」
遼平は、その2人の姿を見て、微笑ましかった。
「何か、良いっすね。俺もいつかはお世話するんかな?想像できない…。」
「いや、その前に結婚だろ。」
「うん、そうなんすけどね。自信ないわ…。」
遼平は腕を組んで考えて落ち込む。
「騒動になっている俺が言うのもなんだけどさ、くるみちゃんは遼平にとってどうなんだよ。」
「へ?騒動ってなんですか。まぁ、くるみは大学時代からずっと今まで付き合ってきましたけど、あいつ…結構俺に隠していることが多くて信じてない部分あるんですけど、何か、放っておけなくて…。何ですかね。別れてもいいって思ってても繋がってるこの感じ。」
「俺も、紗栄と付き合い長いけど、一時的に離れても戻ったのね。そういうの縁というか、必ず戻る縁も存在すると思うんだよね。自分にとって必要な人は、どんなことがあっても一緒にいる。そういうもんかなと……。というか、遼平」
さとしは、陸斗を紗栄に戻して、床に土下座した。
「ごめん。くるみちゃんに手出してしまったこと申し訳ないと思っている。俺もどうかしてた。」
遼平は、そっと土下座するさとしに顔をあげてと体を起こそうとする。
「…くるみ、さとしさんに…。逆にご迷惑かけてすいません。わかっているんです。俺も、くるみってあっち行ったりこっち行ったりしてるって噂とか聞いてるんで、その話聞いても全然驚かないんですが…でも謝ってくれる男性に会えたのは初めてっす。俺が悪いのかもしれないし、紗栄さんと一緒にいるって聞いて、くるみは許せかったかも。」
(自分もさとしさんに謝らないといけないことしてるし…。)
遼平は、紗栄に目配せした。
(確かに私も何も責められない。)
「…くるみちゃん、遼平のことすごく気にしてた。大事なんだと思う。」
「そうなんですね。今度、会った時、真剣にくるみと向き合ってみようと思います。ありがとうございます。」
手をのばし、さとしの体を起こした。
「よし、今日もお仕事頑張りますか!!」
遼平が頷くと、裏口からバイトの2人が入ってきた。
「おはようございます!」
「おはよございます。店長!表の張り紙見ました?」
SNSから広がった噂がもうこのお店まで広がったようで、不倫SATOSHI、最悪SATOSHIなどと誹謗中傷がいろいろ書かれた紙が表玄関に貼られていた。
「え? 騒動ってそういうことすか?ニュース見てないからわからなかった。紗栄さん、知ってました?」
「さっきテレビでいろいろやってたけど…。世の中、イジワルしたくなる人もいるんだね。電話もイタズラ多かったからさっき回線ブッチしてたけどね。どうしようね、この騒動。当事者は何も思ってないのにあることないこと外野はうるさいよね。」
冷めたような言い草で紗栄はブツブツ言う。その感情を読み取ったのか怖いと感じた陸斗は火がついたように泣き始めた。
遼平は改めて、ネットニュースの写真を見た。車に乗ったさとしとくるみが映った写真が出回っていた。
こんなうまい具合に綺麗に撮れるかっていうのが疑問だった。
きっとくるみが雇ったカメラマンじゃないかと憶測した。
予想は的中したらしく、くるみに問い詰めると、写真のデータを売ってお金になることを企んでいた。
まんまとくるみに騙された形のさとし。
きっかけは遼平に対する嫉妬から始まったが、お金になることに気づいたくるみは絶好のチャンスだと見逃さなかった。
しばらくこの騒動は収まりそうになかった。
さとしの今まで撮影してきたCM は打ち切りとなり、これから予定していた出演オファーもすべてキャンセルされた。
多額の違約金が発生していた。
坂本社長は自分自身も演者として気持ちはわかっていたが、ここまでの被害だとは分からず、しばらくはほとぼりがさめるまで東京の仕事は休みとなった。
カフェは騒動があってからか、閑古鳥が無くくらい、お客さんは全然来なくなってしまった。
名前を知られてる以上、騒動や事件を起こせば、リスクが伴う。
バイトを雇うほどじゃないお客さんの数にアルバイトとして雇っていた4人は違うところで働くと次々とやめていった。
残ったのは、
さとしと遼平と紗栄の3人。
本当にお店の存続の危機に達していた。
ガラガラのお店のホールで、3人はぼーっと座っていた。
紗栄は首が座ってきた陸斗を優しく高い高いさせてみた。
陸斗が生まれてから2ヶ月が経とうとしている。
落ちるところまで落ちた気がしたさとし。お店のローンはまだまだ残っている。
これから子育てをやらなくてはいけないし、仕事だって今からがエンジンかかるときのはずだった。
いつ路頭に迷ってもおかしくはなかった。