没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
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空の広い範囲が雲に覆われて青空が遮られている。
雨が降り出しそうな気配はないけれど、どんよりとした重たい空気に包まれている。
「はあ……」
今日は週に一度の定休日。
普段ならベッドから起きてゆっくりとした時間を自室で過ごすのだけれど、今朝の私は日が昇る前にパティスリーへ行き、厨房で一心不乱に調理器具の点検をしていた。
こうして手を動かしていなければ心が落ち着かない。
「はあ……」
私は天井を見上げて何度目かになる溜め息を吐く。
「お嬢様、旦那様が心配なのは分かりますが、犯罪を犯して捕まったわけではないんですから、そう暗くならないでくださいませ」
厨房の隅にある丸椅子に座って泡立て器やヘラの手入れをしていたラナが、私の様子を見かねて声を掛けてくれた。
「だけどお父様が屋敷に戻らなくなってから一週間が経つわ。連絡だって初日にあっただけでそれ以降は一度もない。……心配にもなるわ」
お父様から暫く屋敷に帰れないと連絡が入ったのは一週間前。
その時はちょっとしたトラブルが王宮で起きて、その処理に負われているのだと思っていた。これまでもそんな連絡は何度かあったし、数日帰らない日もあった。
だから特に気にすることはないと高を括っていたのだけれど。