没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
人魚の涙は雫型のブルーサファイアの指輪で、その中心には国花であるイベリスの花が象嵌されている。
非常に特徴的な指輪であり、歴代国王陛下の肖像画で何度も登場しているため、メルゼス国の国民であれば誰でも指輪を思い浮かべることができる。ラナが言っているように、盗んだ秘宝を売ろうとすれば「自分が犯人です」というプレートを首から提げているようなもので、店側から警備隊に通報されて捕まってしまう。
――まだ見つからないってことは犯人が秘宝を持っているか、他国で取引されたかのどちらかだわ。早く事件が解決に向かってくれることを祈るばかりね。じゃないとお父様が過労で倒れてしまうわ。
作業の手を止めて物思いに耽っているとラナが椅子から立ち上がった。
「さて私の方は手入れが済みましたので、貯蔵庫へ行って材料の在庫チェックをしてきます」
「分かったわ。よろしく頼むわね」
中庭を抜けた先には事務室と貯蔵庫がある。ラナは引き出しから帳簿を取って小脇に抱えると厨房から出ていった。