没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
幸いなことに私には双子の弟と妹がいる。歳は六つ離れていてまだ十四歳だけれど、弟は将来侯爵になって家を再建するために日々勉学に勤しんでいるし、妹は幼馴染みの伯爵令息と既に結婚が決まっている。二人がいれば侯爵家の未来は希望が持てる。
「これからはどこかで慎ましく暮らしていきたいわ。フィリップ様と婚約している間は常に彼に相応しい立派な貴婦人になることを意識して息が詰まりそうだったから。とは言っても、このまま侯爵家のお荷物でいることはよくないわね。現時点でも借金で首が回らなくなっているんだから将来的に自力で生活していけるようにしていかないと。借金返済にも協力していきたいし。うーん、私にできそうなこととなると、あれかしら……」
私は控え室から持ち帰ってきたコートに手を伸ばす。コートのポケットには唯一の特技だと言っても過言ではないものが入っている。
私がポケットに手を突っ込んでそれを取り出そうとしていると、突然馬車が音を立てて大きく揺れた。
カーテンを開いて外の様子を窺うと停まった場所は森の中だった。そこはキュール家と街の間にある森で、日常的に使っている安全な道だ。
一体何があったんだろう?
そう思って私が扉を開くと御者が報告にやって来た。
「申し訳ございません。道の真ん中に少年が蹲っておりまして、気づくのが遅れて急停車してしまいました」
「蹲っているって怪我でもしているの? 意識はちゃんとある?」
心配から気が急いてしまった私は矢継ぎ早に質問する。
御者はそんな私に落ち着くようにと一言つけ加えてから一つ一つ丁寧に答えてくれた。