没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
そんなエードリヒ様が突然地方を巡行すると言いだしたのは一年前のことだった。
王位を継いだら簡単に王宮の外へは出られなくなるから、王子であるうちに自分の目で国の現状を確かめ、国政に活かしたいと国王陛下に申し出た。
国王陛下は最初こそ彼の申し出に難色を示した。
理由は国王陛下と王妃殿下の間に生まれた子供はエードリヒ様しかいないからだ。
刺客に襲われて命を落とすようなことがあったら跡継ぎはいなくなってしまう。
そのことを危惧して陛下は送り出すことを頑なに渋っていた。しかし最終的にはエードリヒ様の熱意と視察へ行くための根拠、臣下たちの説得によって折れた。
かくしてエードリヒ様は大手を振って国内視察のために王宮を離れたのだった。
――だけど、首都に戻ってくるのは当分先だったはず。どうして戻ってきたのかしら?
私の疑問に答えるようにエードリヒ様は口を開いた。
「父上から秘宝が盗まれたという連絡が入り、捜査に協力するために帰ってきた。本当はまだ見聞きしたいことがたくさんあったが、秘宝の方が大事だ。あれはメルゼス国にとってなくてはならない品なんだ。……だが、王宮に戻る前にシュゼットの顔が見たくなって。屋敷を訪ねたら執事からここにいると言われて来たんだ」
「長旅でお疲れでしょうに。ご足労をおかけいたしました」
私がお詫びの言葉を口にすると、エードリヒ様は表情を曇らせた。
「シュゼット、私と二人きりの時は仰々しい態度は取らないでくれ。昔のように気軽に接してくれた方が私は嬉しい」