没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
社交界デビューしてからは公の場でしかエードリヒ様と会う機会がなかった。お互い大人になったし、彼は王子殿下だから子供の頃とは違って敬わなくてはいけない。
周りの貴族に倣って、私も言葉を慎むようにしていたのだけど。……エードリヒ様はそれが気に食わないらしい。
「そうは仰いましても」
「頼む、シュゼット。私と君との仲じゃないか」
「……分かりま、分かったわ」
観念したように私が肩を竦めてみせると、エードリヒ様はぱっと表情を輝かせる。
「ありがとう。実はずっと気になっていたし、二人きりで話せるのも久々だからいろいろと嬉しい。これで秘宝の件に専念できる」
「秘宝の件は早く解決して欲しいわ。お父様が過労で倒れてしまうかもしれなくて……心配しているの」
「一刻も早く事件解決へ導こう。それと侯爵には一度屋敷に帰って休むように言い聞かせておく。娘にこれ以上心配を掛けさせるなと小言も加えてな」
「ふふっ。必ずそうしてね」
私がくすくすと笑っているとエードリヒ様は懐かしむように目を細める。
それから流れるように、私の右手を掬い取って甲にキスを落とす。