没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
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「あらっ、ネル君!」
頭を動かしてみると、勝手口の前でネル君が仁王立ちになっている。
ネル君はお休みの日でも手伝いに来てくれる。本当に良い子だし、ありがたいと思う。
だけど今日の彼はいつもと違う雰囲気を纏っていた。
にこにこと微笑んでくれているのに目が笑っていないような気がするし、発せられた声はいつもより低いような気もする。……これは単なる気のせいだろうか。
ネル君は大股でこちらまでやって来ると、私の手を掬いとっているエードリヒ様の手首を掴み、ぺいっと引き剥がした。
「君は……」
目を見開くエードリヒ様は何かを言いかけたが最後までは言葉を紡がずに噤んでしまった。顎を引いてじっと考え込むようにネル君を見つめている。
「どうしたの? エードリヒ様?」
私が小首を傾げて尋ねると、エードリヒ様は私に向かって微笑んだ。
「……いや、何でもない」
一方ネル君はというと、私の隣でずっとエードリヒ様を睨めつけて警戒していた。
その様子は全身を逆立てて警戒している猫みたいで……不謹慎だけどちょっと可愛い。普段パティスリーに来るのは女性のお客様が多いから男性がお店にやって来て緊張しているのかもしれない。
私が頬に手を当ててへにゃりと頬を緩めていると、エードリヒ様がネル君を見てフッと笑みを零した。