没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「随分と可愛い護衛がいるのだな」
「護衛じゃないわ。ネル君はお店を手伝ってくれているのよ」
私は二人にそれぞれ紹介する。
話を聞いていたエードリヒ様は眉を上げると、続いて感心したようにネル君を眺めた。
それに対してネル君はより一層エードリヒ様に警戒心を強めていて、目の鋭さが増している。
紹介し終えたところで、私はエードリヒ様にお茶を出していないことに気がついた。
――エードリヒ様と久しぶりに話ができたのが嬉しくて。つい立ち話をさせてしまったわ。このまま帰ってもらうなんて失礼だし、是非お茶を飲んでいってもらいたいわ。
そしてお茶を出すならそのお供に彼の好きなお菓子を食べてもらいたい。
幼い頃の記憶を思い出していると、ある一つの情景がぱっと脳裏に浮かび上がる。
「エードリヒ様、もしまだ時間があるならオレンジソース添えのクレープを食べて行かない?」
私の提案を聞いた途端エードリヒ様は顔を綻ばせた。精悍な顔つきが一気に子供っぽいものへと変化する。
「それは嬉しい。君のお菓子が食べられるなんてファン第一号としてこれ以上嬉しいことはないし……実を言うと私は君に飢えていた」
私に向けた言葉のはずなのに、エードリヒ様はネル君を眺めながら言葉を紡ぐ。しかも口端を吊り上げて何だか楽しそうだ。
ネル君はというと、ギリリと奥歯を噛みしめてエードリヒ様を睨んでいた。