没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
二人が厨房からいなくなると、早速クレープ作りに取り掛かった。
エードリヒ様は手の込んだ料理よりも家庭的なものが大好きだ。中でもオレンジソースで煮詰めたクレープには目がない。
オレンジソース添えのクレープはメルゼス国の庶民の間で広く親しまれているお菓子の一つ。オレンジは季節になると安価で売られているし、クレープのもとになる材料も手に入れやすいものばかりなので庶民の間でよく食べられているのだ。
私もオレンジソース添えのクレープは好きで、小さい頃はよくお母様に作って欲しいと強請ったものだ。
お母様が作るクレープは一瞬で生地がきつね色に変わって、まるで魔法みたいだった。
次第に私も作りたくなって教えを請うようになり、気がつけばお菓子の世界にどっぷりと浸かってしまっていた。
そしてすっかり忘れてしまっていたけれど、初めてうまくできたクレープを食べてもらった相手はエードリヒ様だった。
当時の私は美味しいかどうかが知りたくて、エードリヒがクレープを食べ終えるまで無言で眺めていた。今思うと非常に食べづらかっただろうし、口が裂けても不味いとは言えない状況だったと思う。
私の無言の圧力に怯むことなく、エードリヒ様はクレープをじっくりと堪能した後、朗らかな笑みを浮かべて「美味しかったからまた食べたい」と絶賛してくれた。
エードリヒ様が言っていた通り、私のお菓子のファン第一号は彼で間違いない。
昔のことをいろいろ思い出し終えたところで、クレープの生地ができあがる。