没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
ネルは二人からクレープに視線を戻すと再び食べ始める。
煮詰められたオレンジソースは甘酸っぱかったはずなのに、次に口にいれるとグレープフルーツのような苦みが広がった。
黙々と食べ続けて最後の一切れを胃に収めると、ぐっと奥歯を噛みしめる。
――シュゼット令嬢のお菓子は美味しいけど、このクレープは好きになれないかも。
ネルは口の中に広がる苦みを打ち消すためにカップのお茶を流し込む。
その間も二人は昔話に花を咲かせて楽しそうに過ごしていた。
「――それじゃあ私は失礼する」
クレープに満足したエードリヒは勝手口の前に立つと別れの挨拶をする。
「また来るぞシュゼット。……あとネル君」
エードリヒはネルに近づくと、肩にぽんと手をのせて小さな声で警告した。
「私の目が黒いうちは、シュゼットに危害を加えたらただで済まないと思え。いいな?」
エードリヒはネルから離れるといつもの朗らかな笑みを浮かべて帰っていった。
「さようなら、エードリヒ様」
ネルの隣に立つシュゼットは手を振ってエードリヒを見送った。その様子をネルは横目でちらりと盗み見る。