没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
エードリヒ様は基本的に公務と公務の合間を縫って会いにきてくれている。王宮とパティスリーは離れているのにわざわざ足を運んでくれるのは純粋に嬉しかった。
「今日も街の人と変わらない、自然な格好をしているけど。一人でこの辺りを彷徨いて大丈夫なの?」
エードリヒ様は毎回一般人の格好をして一人でやって来る。
今日は黒シャツの上に青色の横縞模様が入った水色の生地のウエストコート、灰色のズボンを履いている。国内視察で一般人に扮することもあったのだろう。いつも王子としての品格を完璧に隠している。
私がじっとエードリヒ様を観察していると、彼は照れくさそうに鼻を掻く。
「一人で来ている訳じゃないから安心して欲しい。護衛の数名を連れてきているし、パティスリー周辺で待機させている。ここは君の大切な聖域だ。衛生面を考慮するとたくさんの人を入れるわけにはいかない」
「それを聞いて安心したわ。一国の王子様がたった一人でパティスリーに来るのは危険な行為だし、万が一何かあったら私は責任が取れないもの」
私がホッと胸をなで下ろしていると、エードリヒ様が懐から書簡を取り出した。