没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
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最近、アル様のことを考えるとこの二つの感覚に襲われることが多い。
はじめは一お客様として接しているだけだった。けれどお菓子を通して交流していくうちに私の中でアル様の捉え方が次第に変わっていった。
お客様から特別なお客様へ。特別なお客様から信頼できる人へ――。
気づけば彼と過ごす時間は私の生活の一部であり、切っても切り離せないものになっていた。だからこれからもアル様とは良好な関係を築いていきたい。
――それは一お客様として? それとも一人の男性として?
不意にもう一人の自分に問いかけられて私は目を瞠った。
まさか自分の中にそういった感情がまだあったなんてびっくりだ。
――……私は独りで生きていくって決めたじゃない。今さら恋なんて……きっと気のせいだわ。
自分の感情を分析するのが怖くなってやめた。これ以上続けると知ってはいけない感情に触れてしまいそうだったから。
――アル様は私のお菓子を食べに来てくれているだけであって、私に会いに来ているわけじゃないのよ。
自惚れるのもいい加減にしろと自分を叱っていると、ラナが怪訝そうな顔をしながら声を掛けてきた。