没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「お嬢様? ずっと固まっていますけどどうかされました? ……胸が痛むのですか?」
「え? ああ、違うの。そうじゃないわ……」
胸から手を離して慌てて否定する。と、ラナが突然にんまりとし始めた。
「さてはお嬢様、アル様に言い寄られて困っていますね?」
「へっ? な、何を言っているの? 言い寄られてなんてないわ。アル様はお客様で私のお菓子のファンなの。そういった関係じゃないわよ」
馬鹿も休み休み言いなさいと私が注意すると、ラナが人差し指を立てて左右に振る。
「果たしてそうでしょうか? いくらお菓子好きだからといって雨の日も風の日も嵐の日も足しげくお店に通う人なんて普通います? どこからどうみてもお嬢様に気があるとしか思えません!」
続いてラナは何かを思い出したようにあっと声を上げる。
「そういえばエードリヒ殿下も頻繁に通っておられますよね。これは所謂三角関係というやつでは!?」
「三角関係でも何でもないわ。エードリヒ様には昔から想い人がいるし、その人一筋なんだから!」
フィリップ様との婚約が正式に決まったことを報告した際に、エードリヒ様が私に想い人がいることを打ち明けてくれた。小さい頃からその人のことが好きでずっと側にいたかったらしいけど、その人は他の誰かと婚約してしまってもう手の届かない存在になってしまった。
新しい恋をしたらどうか提案してみるとエードリヒ様は『私は生涯その人を想い続けたい』と今にも泣き出しそうな表情で言ってきたのでそれ以上は何も言えなかった。