没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
その想い人のことがとても大切なのは私の目から見ても明らかだったから。
私は腰に手を当てて言い含めていると、ラナが遠くを見るような目で天井を仰いだ。
「……うちのお嬢様は罪な女ですね。そしてなんだか可哀想になってきましたよう」
「なんで私が哀れまれているの!? というか哀れまれる部分なんてないでしょ?」
反論すると呆れた様子のラナが深い溜め息を吐いた。
「まあ、この際お嬢様のことは良しとします。だって想い人を想うだけで言葉を口にしなかった弱腰殿下が一番悪いです。よって殿下はなしですね。……というわけでやはり私はアル様を推します!」
「エードリヒ様に対して辛辣過ぎない? 聞かれたら大変よ。それからアル様はそんなんじゃないってば!」
再度否定したけれど、ラナは私の話を聞かずに妄想に浸っていた。
「ふわああ、遂に我がお嬢様にも春が来ましたよう! 嗚呼、あのクソ男のせいで婚期を逃したかと思っていましたが安心しました。今度はとんとん拍子で結婚まで進んで欲しいです。この際、相手がどこの馬の骨と分からずとも結構です。貴族の庶子だろうと没落貴族だろうと構いません! お嬢様に春がっ!!」
「何度も言わなくていいから!! それから没落貴族はうちだけで充分よ。これ以上借金を背負う人生なんてごめんだし。というか一旦落ち着い……」
落ち着くよう窘めようとするとラナが弾かれたように私の方を凝視する。
「はっ、こうしてはいられません! あとは私がやりますので早くイートインスペースへ向かってくださいませ!!」
ラナに背中をぐいぐいと押された私はお菓子とティーセットがのったワゴンと一緒に厨房から追い出されてしまった。
前のめりになるように店内に入ると、間仕切りの隙間からアル様の造作の整った美しい横顔が見える。私は一度深呼吸をするとイートインスペースへと向かった。