没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「い、ま……お持ちしますね」
大好きという言葉と魔性ともいえる笑顔で私の心は限界を迎えていた。
同じ言葉をネル君にも言われたことがあるのに、ネル君とは違って心がふわふわと浮き立っている。
自分の気持ちをはぐらかすように拳を握り締めると、逃げるようにして厨房へと駆け込んだ。そのまま外の中庭へ出ると事務室として使っている部屋に入る。備え付けられている手洗いに手を付いた私は肺に籠もった熱を吐き出すように息を深く吐いた。
手洗い場の壁には鏡が掛かっていて、そこを覗き込めばこれまで見たこともないくらい真っ赤な顔をした私が映り込む。
下手すれば顔から立ち上る湯気が見えるかもしれない。それくらい、私の顔は火照っていた。
熱を取り除くように私は収納棚からハンカチを取り出して水に浸すと頬につける。
濡れたハンカチはひんやりとしていて、頬の熱を吸い取ってくれるのが気持ちいい。
落ち着きを取り戻した私はふうっと小さく息を漏らした。
――ラナが、厨房にいなくて良かったわ。
こんな姿を見られたら絶対に騒ぎされるこに違いないから。
私は厨房に戻ると、アル様のために美味しいお茶を淹れる。
顔の熱は引いたけれど心臓の鼓動は激しいままだった。