没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
わざと知らない振りをして尋ねてくるエードリヒにネルは表情を歪めた。
国王陛下から極秘に執務室を用意してもらったのは非公式に秘宝の調査をすることと、大人の姿から子供の姿へと変わる瞬間を他の誰かに目撃されないためだった。
この大陸で魔法などの超自然的な力は奇跡の力として崇められている。大人から子供に姿が変われば必ず周りの関心を買うことになるだろうし、自分がまほろば島の魔法使いだと知られては面倒なことも起きるだろう。
したがってアルは姿が変化する際はこの執務室に籠もって人目を避けている。
エードリヒは仕事用の椅子に腰掛けると背もたれに背をつけて優雅に長い脚を組む。
「入国した当初よりも力が戻っていると宰相から報告を受けている。子供の姿でいるのが短くなっているのもそのためだろう。だったら、そろそろ犯人を見つけ出すことは可能じゃないのか?」
顔には出さないものの、エードリヒは秘宝を一刻も早く犯人から取り戻して欲しいようだ。王族なら誰しもそう思うに違いない。
あれにはあらゆる不運からこの国を守る強大な魔力が込められているのだから。
万が一にも国外へ持ち出されてしまうと、守りの効果は切れてしまう。そうなれば災いや邪悪なものがありとあらゆる形となって襲いかかり、この国を滅びへと導くだろう。