没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
アルは自身の肩に手を置いて腕を回しながら答える。
「力は万全って訳じゃないけど、そろそろ人魚の涙を追うことくらいはできそうです」
「対応してくれるのなら助かる。私も父上に命じられて捜索に当たったものの、正直お手上げ状態だからな」
珍しくエードリヒが弱気な発言をする。
宝物庫を管理していたのは総務部の人間だった。しかし秘宝が盗まれた時期は王妃殿下のバザーに出品する家具の選定時期と丁度重なってしまっていた。
先程確認していた宝物庫の入退室記録を見る限り、王妃殿下に仕える侍女や侍従は大勢いて代表者の名前が一人書かれているだけで残りは何名宝物庫へ入退室したかが書かれただけのお粗末な記録だった。
取り調べをしようにも誰が宝物庫にいたのか、正確に把握するのは困難を極める。
国内視察をしていたエードリヒは秘宝の捜索を国王陛下から命じられたものの、当時王宮にいなかったため話を聞いて状況を精査することくらいしかできないでいる。
王子としてこの事態を早急に終息させたいだろうに、自力で行動し解決するための手立てもない。一番もどかしい立場だとネルは思う。
苦悶の表情を浮かべるエードリヒは溜め息を吐くとこめかみに手を当てた。
「……一番頭が痛いのは人魚の涙の窃盗話が社交界に広まっていることだ。王家の醜聞が首都にいる貴族たちに知られてしまった」
盗まれた秘宝は当初、関係者内で調査と処理が迅速に行われるはずだった。
しかしどこから情報が漏れてしまったのか秘宝が盗まれたことは社交界に広まってしまったのだ。