没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
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国王陛下は秘宝の行方や敵対する貴族たちからの非難に頭を悩ませており、心労が祟った結果、円形脱毛症になっている。王冠を被ってうまく誤魔化せてはいるが宰相の話によると脱毛範囲は尋常ではない速度で広がっている。
秘宝がこの国を守る秘宝であることを知っているのは王族とまほろば島の魔法使いだけだが、建国当初から王家の象徴として受け継がれてきた秘宝が盗まれたとあって王宮内は連日バケツをひっくり返したように大騒ぎしている。
「父上が箝口令を敷いて多少は静かにはなったが、国中に話が波及するのも時間の問題だ。それまでになんとかしてけりを付けて欲しい」
「一刻も早くこの件を終わらせてみせます」
アルは真顔になると拳を胸の上に置いてエードリヒの前で深々と頭を垂れる。これは魔法使いが王族に対して誠心誠意対応することを示す誓いの礼式だ。
エードリヒにもアルの誠実さが伝わったのだろう。彼は張り詰めていた空気を緩めるように瞼を閉じる。
程なくして再び瞼を開くと、エードリヒは立ち上がってアルと向き合う形を取った。
「正直なところを聞きたい。あとどのくらいでこの件は処理できる?」
「……一週間あれば、恐らく。ここ数日で子供の姿になる時間がどんどん短くなっているのでもうすぐ完全に僕は力を取り戻します」
「一週間か……。短いようで長いな」
エードリヒは顎に手をやると率直な感想を口にする。
現段階で秘宝を見つけ出し、犯人を捕まえることはネルにはできる。が、それを行えない理由があった。