没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
――僕が今魔法を使ってしまったら、秘宝が秘宝としての機能を失ってしまう可能性がある。
やるなら万全を期して取り組みたい、というのがアルの本音だった。
それから念のため島長に連絡を取ってみると、まほろば島からアル以外の魔法使いがメルゼス国へ送り込まれる予定はないと言う返事が返ってきた。
早く力を取り戻してアル自ら問題解決しろというのが島長の考えだ。
――あの秘宝を手がけたのは僕だから。僕じゃないと探すのに時間が掛かってしまう。島長からすれば僕以外に適任者はいないってことなんだろうな。
アルが困った表情を浮かべて頬を掻いていると、黙考していたエードリヒが「話は変わるが」と前置きを口にした。
神妙な表情を浮かべているのでアルは首を傾げた。
「いつまでシュゼットを騙すつもりだ?」
力を取り戻しつつあるということは、真実をシュゼットに伝える時期が来ていることを示している。
「それはいずれ話しますのでご安心を。殿下は僕がネルだろうとアルだろうと、パティスリーへ通っていることをよく思っていませんよね?」
尋ねるとエードリヒが朗らかに笑ってみせる。が、その目は一切笑ってはいなかった。
隠していた覇気が露わになり、アルは思わず生唾を飲み込む。