没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「前にも言ったことだが……シュゼットに危害を加えたらただでは済ませない。彼女を悲しませる者は誰だろうと容赦しない」
普段の穏やかな声音とは打って変わってドスの利いた声が室内に響く。
片足を後ろへと下げてしまいそうになったアルは、ここで後退りしたら負けだと思い、足に力を入れて踏みとどまった。
「だったら、僕を揶揄うのはやめてください。いつも肝心な時にあなたに邪魔をされて迷惑しているんです」
「いつ君の恋路を揶揄って邪魔をしていると? 私はただシュゼットのことを心から深く――」
そこで丁度扉を叩く音が聞こえてきて、エードリヒが口を噤んだ。
「アル殿、少し聞きたいことがあって参りました。おや、エードリヒ殿下ではありませんか」
宰相がここで何をしているんですか? と怪訝な表情を浮かべるのでエードリヒはいつもの朗らかな表情を作って笑ってみせる。
「少し話したいことがあって寄っただけだ。もう終わったから私はこれで失礼する」
エードリヒはそう言って身を翻すと颯爽と執務室から出ていった。
アルはその背中をしげしげと見つめる。
――王子殿下はシュゼット令嬢のことが……。
その先を考えること自体が無粋な気がして、ネルは頭を振って思考を霧散させる。
「聞きたいこととは一体なんですか?」
再び視線を宰相に戻すと普段と変わらない調子で対応を始めるのだった。