没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
私はその依頼に快諾した。
「分かったわ。丁度明日はお店がお休みだし大丈夫よ」
「そうだろうと思って提案させてもらった。それで料理人への指導が終わった後なんだが私と二人で……」
いつも朗らかな微笑みを絶やさないはずのエードリヒ様の表情が固くなっている。
「エードリヒ様?」
少し様子がおかしい彼が気になって、私が覗きもうようにして様子を窺っていると、厨房勝手口の扉が勢いよく開いてネル君が入ってきた。
「お嬢様、今日もお疲れ様です!」
溌剌と登場したネル君にエードリヒ様の表情から笑みが消える。
私はそれには気づかずに、エードリヒ様を横切ってネル君に駆け寄った。
「ネル君、今日は来てくれたのね!」
このところ手伝いに来てくれる日がめっきり減っている。
開店当初は毎日来てくれていたけれど暫くして二、三日に一回になり、近頃では一週間に一度来るか来ないかの頻度にまで下がってしまっている。
もともと雇用しているわけでもないし、給金を支払っているわけでもないから、毎日来なくても構わない。ネル君ファンのお客様にはその辺りの事情を説明しているので充分に理解してもらっている。
――だけどだけど、やっぱりネル君がこのパティスリーにいないのは寂しいわね。
少し感傷的になっていると怪訝そうにネル君が「お嬢様?」と首を傾げて尋ねてくる。
首を横に振って何でもないと伝えると、ネル君が小さな花束を差し出してきた。