没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「デイジーの花がやたら飾られていると思えば……そういうことだったのか。私がこの間イベリスの花束を持ってきたから対抗心を燃やしているのか?」
にやりと口端を持ち上げるエードリヒ様に対してネル君が屈託のない笑みを浮かべる。
「もう。そんなわけないじゃないですかあ。これは僕の気持ちを表現しているだけです」
するとエードリヒ様がネル君に近づいて見下ろすような姿勢をとる。
「それならその誠実さをもっと全面に押し出すといい。その格好で花束を持ってくるなんて、私からすれば既に卑怯だと思うが?」
「卑怯じゃありません。夕方は綺麗で新鮮なお花が残っていないので昼間に買いに行っているだけです。それの何がいけないんですか?」
相変わらずネル君とエードリヒ様は顔を合わせると戯れあっている。
端から見るとネル君が警戒心丸出しの子猫で、エードリヒ様が泰然と構える大型犬のようだ。一見、仲が悪そうに見えるけれど二人ともいつも何かの話で盛り上がっている。
喧嘩するほど仲が良いという言葉が二人にはぴったりだ。
私が微笑ましく思っているとエードリヒ様が急にこちらに振り向いて、名残惜しそうに言った。
「――まだここにいたいところだが、私は次の公務があるので失礼する」
私の手を掬い取り、甲にキスをしたエードリヒ様は王宮へ帰っていった。