没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


「こんなの急すぎるわよ!」
 私は頭を抱えながら嘆いた。
 明日といえば、王妃殿下のバザーの打ち合わせもある。打ち合わせの時間が午後二時開始であることが唯一の救いだけれど、移動時間も含めると余裕のないスケジュールになりそうだ。

「あのクソ男はどこまでうちのお嬢様を振り回せば気が済むんですかあ!?」
 店内にいたはずのラナは丁度この場に居合わせていたらしい。フィリップ様の理不尽な依頼に対して酷く憤り、地団駄を踏んでいる。

 私はラナに落ち着くよう窘めると改めて招待状に視線を落とす。
「完全にフィリップ様からの嫌がらせね。でなければわざわざ二日前に招待状なんて届けさせないわ」
「嫌がらせと分かっておりますし、こちらも対抗して取り合わなければよろしいのでは?」

 個人的には賛同したい意見だったけれど私は首を横に振った。

「私が欠席してエンゲージケーキを持っていかなければもちろん婚約パーティーは台なしになるでしょうね。だけどその場合、お客様を私情で選ぶような店だと言いふらされるわ。その話が広まればお店の売り上げにも響くだろうし、私自身も貴族たちから狭量な人間だと後ろ指を指されかねない。……ここは無難にエンゲージケーキを準備してパーティーに出席するのが得策よ。泰然と構えて侯爵令嬢としての威厳を見せつけないといけないわ」

 説明を聞いたラナはなるほどっと手のひらの上にぽんと拳を乗せる。しかし、すぐに不安そうに私を見つめてきた。
「ですがお嬢様、招待状にはいちごがたっぷりのエンゲージケーキと書かれていましたよう。ケーキを作るにしても材料は大丈夫ですか?」
「残念ながらいちごはもうないわ」

「では商会へ行っていちごを仕入れてきますね」
 ラナは私の返事を待たずに商会へと出かけていった。

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