没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 私は溜め息を吐くと作業台の端に招待状を投げ置いた。
「あの。お嬢様、本当に大丈夫ですか?」
 ネル君が気遣わしげに声を掛けてくる。

「大丈夫よ。急な注文でも対応できる自信はあるわ」
「いや、ケーキの心配じゃなくて……」
 何かを言いたそうにするネル君だったけれどグッと何かを呑み込むようにそのまま口を噤んでしまった。

「ラナはいちごを買いに行ったし。急ピッチでエンゲージケーキを完成させなくちゃいけないから、お店は閉めてしまいましょう。……折角手伝いにきてくれたのにごめんね」


 今日ネル君に手伝ってもらえることはなさそうだ。
 眉尻を下げて謝れば、ネル君が指をもじもじとさせながら作業台に視線をやった。
「僕もこのお店の一員だからエンゲージケーキの手伝いをさせてもらえませんか?」
「え、だけど」
「邪魔になることは絶対にしないって約束します。僕だってこのお店の一員だから……。ラナさんのように何かしたいんです」
「……っ」

 可愛いネル君に切実な表情で訴えられては断れるはずがない。それに猫の手も借りたいくらい切羽詰まった状況になっているので彼の申し出はありがたいことこの上ない。
 私はネル君と同じ目線になるよう前屈みになった。

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