没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「今日という日が遂に来たのね」
エプロン姿の私は腰に手を当てると、もう何度目か分からない店内をぐるりと見回した。
ショーケースの中にはフルーツやクリームをたっぷりと使ったケーキやタルトが並び、棚には日持ちしやすい焼き菓子を中心にフィナンシェやクッキーを置いている。ショーウィンドウはお店の顔なので可愛らしいリボンやレースの飾り付けに気合いを入れた。
心が浮き立ち始めてスカートの前で指をもじもじさせていると後ろにある厨房から声を掛けられた。
「いよいよですね、お嬢様」
そう言って店内にやって来たのはメイドのラナだ。
焦げ茶色の髪を低い位置でシニヨンにしてまとめていて、爽やかな水色のブラウスと黒のフレアスカートを着ている。くりくりとした瞳は金柑色で鼻に散っているそばかすがチャームポイントの可愛らしい顔立ちだ。
ラナは彼女の祖母の代から侯爵家のメイドとして働いていて、幼い頃は年も近いことから私の遊び相手として一緒に育った。年頃になるとそのままメイドとして働くようになり現在に至る。
キュール家の家計が火の車になってからは大勢の使用人が辞めていってしまったけれど、ラナは最後まで残ると言ってくれた数少ない使用人のうちの一人だ。
私にとってラナはメイドというよりも家族の一員であり、幼馴染みであり、親友に近い存在だ。残ると言ってもらえた時はとても嬉しかった。