没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
私はエプロンの紐を解いて脱ぐと買い出しへ行く支度をした。帽子を被って鞄を掛けると、花を摘むネル君に声を掛ける。
「レモンが切れてしまったから買いに行ってくるわね」
「それなら僕が代わりに……」
「大丈夫よ。暗くなると危ないからネル君はお花を摘み終えたらお家へ帰ってね。今日のおやつは戸棚に置いてあるから!」
「お、お嬢様!」
私はネル君の制止を振り切って通りへと出た。侯爵家の馬車は送り迎えに使っているだけでそれ以外の時間は屋敷で待機してもらっている。今の時間はまだ馬車はお店に来ていないので移動手段は辻馬車を捕まえるか、自分の足を使うかのどちらかになる。
この時間帯は仕事終わりの人や買い物を済ませた人で馬車道が混み合うので辻馬車を使うと商会に到着する時間が閉店時間を余裕で越してしまう。
ここは自分の足で商会へ向かうのが一番手っ取り早い。
――出かけるときは絶対にお付きの者を連れて馬車で移動するようにとお父様から言われているけど……。
ラナが帰ってくるのを待ってはいられないし、馬車を使えばもっと到着が遅れてしまう。そうなると目的のレモンは手に入らないし、エンゲージケーキは完成しない。
「ごめんなさいお父様。背に腹はかえられないの」
私はぽつりと謝罪の言葉を口にすると、大勢が行き交う大通りを縫うようにして走った。