没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 絶望に浸っていると、目の端の方で急に辺りがぱあっと明るくなった。薄暗い路地で何かが光っている。
 一体何だろう?
 頭のすみで疑問を抱いた次の瞬間、目の前に立っていた浮浪者が音もなく忽然と姿を消した。
 程なくして、遠くの方で衝撃音とぎゃああっという情けない声が聞こえてくる。
 視線を向けると、浮浪者が地面の上で白目を剥いて伸びていた。何が起こったのかさっぱり分からなくて瞬きしていると、誰かに両肩を掴まれた。

「シュゼット令嬢っ」
「ア……ル……?」

 顔を上げると息を切らし、血相を変えたアル様が私の視界に入ってくる。
「怪我は? 酷いことはされてない?」
 アル様に優しく尋ねられた途端、安心したのか私の視界はみるみるうちにぼやけていく。
 ――来てくれた。アル様が助けに……。
 気が抜けてその場に崩れ落ちそうになると、アル様の腕がしっかりと身体を抱き留めてくれる。

「もう心配いらないから」
 アル様はそのまま私を抱き寄せると腕に力を込めた。
「う、ううっ……」

 みっともないという言葉が頭を過ったけれど、私はアル様にしがみついて子供のように嗚咽を漏らした。

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