没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
アル様は何も言わずにただじっと私を抱き締めて頭を撫で続けてくれる。その手つきはどこまでも優しく温かくて、恐怖を拭い去ってくれているようだった。
一頻り泣いて落ち着きを取り戻た私は目尻に溜まった涙を拭う。
「落ち着いた?」
「はい。おかげさ……」
おかげさまでと言い切る前に、はたと私は自分の置かれた状況に気がついた。
泣いている間、私はアル様の腕の中にいてそれは今も進行中だ。
「た、たた助けてくれてありがとうございますっ! それで、ええと……」
上擦った声で狼狽えているとアル様がくすりと笑う。
「どうして僕がここにいるかってこと?」
こくこくと頷けばアル様は頬を掻きながらネル君に頼まれたからだと答えてくれた。
ネル君はアル様が来る前にいつも帰って行くからどんな人なのか知らないはずだけど、私がいつも話をしていたから、夕方に来た彼がアル様だとすぐに分かったのかもしれない。
そして戻ってこない私を心配して、アル様に迎えを頼んだのだろう。
そう納得して頷きかけたところで私は動きを止めた。
――違う。そうじゃなくて! いいえ、アル様が助けに来てくださった理由が知れて良かったのは確かだけど。……問題はこの現状!!
腕を放してくれないかと頼もうとしたのに、アル様はこの場に現れた理由を説明してくれた。お陰で私は未だに彼の腕の中にすっぽりと収まったままになっている。
ここで私はとうとう認めてしまった。
私がアル様のことをどうしようもなく好きだということを。