没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「準備を手伝ってくれてありがとう」
「いいえ。お嬢様のためならどこへだって付いて行きますよう」
ラナは背筋をすっと伸ばすと拳で胸をとんと叩いた。
因みにラナは普段から「です」「ます」を使って喋るよう彼女のお祖母様から教育されているため、私と二人きりの時でも人前で喋る時と変わらない物言いをする。
「それにしても、旦那様があっさりお店の許可を出してくださって良かったですよう。恐らくはお嬢様の婚約があんなことになって申し訳ないと思っていたのでしょうね」
「そうね。お父様も今回のことは予想外だったみたい。婚約破棄された私に対して後ろめたさがあるんだと思うわ。だけど、あのままフィリップ様と結婚するより却って良かった。きっと幸せにはなれなかっただろうから。まあ、念願のお店を開くことができたっていう点だけで見れば、彼には感謝しなくてはいけないわね」
するとラナがキッと目を吊り上げた。
「あんなクソ男にお嬢様が感謝の念を抱くなんてもったいないですよう! 私、毎日寝る前に奴の頭部が禿げてピッカピカになることを世界樹に祈ってますから」
「クソ男って。……先代の頭部を思い出すに、それはかなりの確率であり得るわね。って、そんなことは祈らなくていいから!!」
私はラナに突っ込みを入れると苦笑する。
その真剣さからフィリップ様の頭部が禿げることを本気で願っていることが伝わってくるが、そんなことのためにラナの貴重な時間を奪ってしまうのは申し訳ない。
「では将来中年太りで痩せられなくなってどうしようもない体たらくになることを祈ります!!」
「それも先代の体型と一致しているからかなりの確率であり得るでしょうね。……ありがとうラナ。気持ちだけはしっかり受け取っておくから祈るのはやめなさい」
「ううっ。お嬢様がそう仰るのであれば承知しました」
ラナが不服そうにしつつも頷いてくれたところで、私は壁掛け時計を確認する。
丁度、短い針がオープンの時間を指している。
私は気を引き締めると眉を上げてラナに言った。