没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
私が窘めようとするとアル様が制してくる。
「僕はこのお店の常連客であり、新商品開発の相談役でもある。いわばこのお店の一員でしょ? そんな僕が手伝わないでどうするの。ほら、一緒に厨房へ行こう。これ以上手を止めていたらいよいよ間に合わなくなるよ」
言われてみれば、アル様にはこれまで何度もお菓子の相談をし、その度にアドバイスをもらってきた。
このお店にとって切っても切れない存在だと思ったのは私なのに、どうして都合の悪いときだけ彼を切り離そうとしていたのだろう。
都合良くアル様を扱っていたことに気づいて深く反省する。アル様はこれまで誠実に私に応えてくれた。だから今度は私も彼に誠実さを示さなければ。
「ありがとうございます。アル様。よろしくお願いしますね!」
「もちろん」
アル様は笑みを作るとラナと一緒にお店の中に入っていく。
私は二人の後ろ姿を見てぎゅっと拳を握り締めた。
このパティスリーのオーナーは私だけど独りで戦っているわけじゃない。たくさんの人たちに支えられてこのお店は成り立っている。
――だから絶対にやり遂げてみせるわ。
私は眉を上げると二人の後を追い、作業を再開させた。