没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 厨房に戻ってみると作業台のすぐ下にはラナが買い付けてくれた箱いっぱいのブルーベリーとラズベリーが置かれている。予想はしていたけれどフィリップ様はいちごだけを買い占めただけで他は買い占めていなかったみたいだ。
 作業台の上にはエードリヒ様から頂いたいちごに、ネル君が摘んでくれた食用花。そしてその隣にはさっき私が買ってきたレモンもある。
 思い描いたケーキを形にするための準備は整った。
 あとは時間との勝負。

「皆が力を貸してくれたお陰で材料はすべて揃った。だから絶対無駄にはしないわ」
 私は両手で頬を叩いて気合いをいれるとエプロンの紐を締める。

 いろんな人たちが助けてくれたお陰でフィリップ様に頼まれたエンゲージケーキは、夜明け前に完成することができた。
 四角い赤紫色のキャンバスは真っ白な生クリームで縁取られ、カラフルなマカロンやアラザン、そしてスミレやパンジー、ヴィオラなどの食用花(エディブルフラワー)で彩られている。

 飾り付けを始めた当初、ジャム作りを手伝ってくれたアル様とラナはケーキの完成を見届けると言って徹夜する気満々だったけれど、深夜過ぎにはこっくりこっくりと船を漕ぎはじめてそのまま眠ってしまった。
 今も作業台に突っ伏した二人からはすうすうと規則正しい寝息が聞こえてくる。

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