没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 私と婚約破棄をしてまだ半年も経っていないのに会場は祝福ムードに包まれている。
 ――まあ、爵位だけが取り柄の未来が暗いキュール侯爵家と縁を結ぶよりも実りが大きいライオット男爵家と縁を結んだ方が得をするのは誰が見ても明白よね。
 私は肩を竦めてからラナにエンゲージケーキが入った箱を執事に渡すように頼むと庭園へと歩みを進める。
 それまで和やかに歓談していた周りの招待客たちが私の存在に気づくと会話をぴたりとやめた。続いてこちらの様子を窺いながら声を潜めて話し始める。

「誰かと思えばキュール侯爵令嬢ですわよ」
「まあ、なんて面の皮が厚い人なのかしら」
「フィリップ様とカリナ様のためにエンゲージケーキを振る舞うと招待状に書かれていたが、あれは本当なのか?」
「伯爵に捨てられたけど気にしていない、私は寧ろ二人を祝福してますって体を取ろうとしているんじゃないか?」
「あら、それってただの負け惜しみでは?」
 くすくすと小さな笑い声や蔑んだ言葉の数々が聞こえてくるけれど、私は凜とした表情のまま真っ直ぐフィリップ様の元へと歩いていく。

 悪口を言いたい人には言わせておけばいい。ああいうのは普段から誰かの揚げ足を取ろうと目を光らせている暇な人たちなので真に受けていてはこちらが疲弊してしまうだけだ。
 私は背筋をさらに伸ばすとフィリップ様が座っている席まで歩いた。
「プラクトス伯爵、ご婚約おめでとうございます。そしてこの度はお招きいただきありがとうございます」
 ドレスの裾を摘まんでカーテシーをするとフィリップ様は冷ややかな目で私を見る。
「はんっ。本当に来るとは思っていなかったぞシュゼット。依頼しておいたエンゲージケーキは持ってきているのだろうな?」
「もちろんでございます」
「カリナはおまえのところでエンゲージケーキを頼んで振る舞いたいと言っていたから叶えてあげた。出来が悪ければただじゃおかないからな」
「ビジネスに私情は挟みませんわ」
 私はそれを一蹴する。
 ――できを悪くしようとしたのはそちら側なのによく言う。
 内心腹が立つと同時に、胸がちくりと痛んだ。

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