没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
婚約者だった時、フィリップ様が私のために何か行動してくれたことは一度だってなかったし、今みたいな優しさを示してくれたこともなかった。
もうフィリップ様への気持ちなんてこれっぽっちもないけれど、彼を信じて愛情を一心に注いでいたあの時の自分が滑稽で可哀想になる。
耐え忍ぶようにキュッと唇を噛みしめていると、席を外していたカリナ様が取り巻きを連れて戻ってきた。その中にはジャクリーン様の姿もある。
「シュゼット様ご機嫌よう。本日は私たちの婚約パーティーに来てくださるなんて……とっても嬉しいですっ」
感激するカリナ様は手を合わせて翡翠色の瞳をキラキラと輝かせる。
パーティーの主役ということもあり、カリナ様のドレスは色鮮やかなピンク色で胸元にはたっぷりのフリル、ふんわりと広がるスカートにはたくさんの宝石や真珠が鏤められていて豪華だった。
カリナ様はよく通る声で私のお店の紹介を始めた。
「シュゼット様のお店には以前伺ったことがあるんですけどお菓子が可愛らしくて味も美味しいのですよ」
周りの招待客たちから一斉に胡乱げな視線が集中する。大半の人は経営について何も知らない令嬢が気まぐれに始めたお店だから大したことないと思っているようだ。
特に男性陣がこちらを白い目で見ているのをひしひしと肌で感じ取り、私は虎穴に入った気分になった。