没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 夜明け前まで一生懸命作ったエンゲージケーキ。
 お菓子作りを愛している私に、それを冒涜する行為ができるはずない。
「ちょっと待ってください。どうして心を込めて作ったエンゲージケーキを私がぐちゃぐちゃにしなくてはいけないのですか?」
「そんなのフィリップ様を奪った私が憎いからに決まってます! 世間体やお店の評判のために渋々ケーキを作ったけれど、やっぱり私が許せなくて腹いせにぐちゃぐちゃにしたんでしょ? 祝福してくれていると思っていたのに。こんなのあんまりだわっ!!」
「そんなことしてなっ……」
「シュゼット、嘘を吐くな! 寝る間も惜しんで準備を頑張っていたカリナの気持ちを考えろ! すぐに謝れ!!」
 私の反論を遮るようにフィリップ様が怒鳴りつけてくる。

 一体何を謝れというのか。謝って欲しいのは私の方だと叫び返したい。
 けれど、カリナ様が泣いてしまったことで周囲も私がエンゲージケーキを台なしにした犯人だという認識が広まっている。
 緩んでいたはずの敵意がぶり返し、四方八方から鋭い視線が突き刺さる。


「エンゲージケーキを作ったとか言って、仕上げにケーキを崩したのかしら? こんなのただの嫌がらせよねえ」
「澄ました顔をしているが、とんだ悪女だな」
「そんな性格だからプラクトス伯爵に捨てられたのがまだ分からないのかしら?」
 非難が集中して私はたじろいだ。
「ち、違います。私はそんなこと……」
「まだ白を切るらしいぞ」
「おお、嫌だ嫌だ。見苦しい女ほど手に負えないものはないな」
「折角お菓子で評判を築いていたのに嫉妬ですべてが台なしになったようだ」
 身勝手な解釈がエスカレートしていく。誰も私の話を聞いてくれない。

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