没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
その態度で頭に血が上ったのはフィリップ様だった。
「小間使い風情が貴族によくもそんな口を!!」
今まで黙っていたフィリップ様が大股でネル君に近づいて手を振り上げる。
「やめて!」
私が制止の言葉を掛けるもフィリップ様はネル君に向かって手を振り下ろした。しかし、ネル君はひらりと躱すと不適な笑みを浮かべた。
「伯爵はライオット男爵令嬢と結婚できないよ。しても良いけど、家名に傷が付く。……だって、彼女こそが王家の秘宝・人魚の涙を盗んだ張本人だから。王宮に侍女として奉公していたのも、あなたに近づいたのも元々は宝物庫に侵入して金目のものを盗むためだった」
「何を言っているの?」
突然の降って湧いた話に名指しされたカリナ様は狼狽える。
「事実を話しているだけだよ。君は伯爵から宝物庫の鍵の居場所を聞き出して王家の指輪を盗んだ。そうでしょ?」
ネル君は腕を組んで可愛らしく小首を傾げてみせる。
嗚呼、小首を傾げるネル君が可愛い――という私の邪念は脇に置いておいて、カリナ様と同様に私も急展開についていけない。
お父様は指輪と犯人の手がかりが見つからなくて捜査が難航しているって言っていた。なのにどうしてそれをネル君が知っているのか。そしてどうしてカリナ様が犯人だと分かるのだろう。
「こんなの子供が考えるただの妄想だわ。嗚呼、私を貶めてシュゼット様を救おうとしているのね? 証拠もないのにどうして私が犯人だと言えるの? 酷い、酷いわ」
ネル君に傷つけられて悲しむカリナ様は再び涙を流す。
自分は潔白だと。この子供はただシュゼットを庇うためにでたらめなことを話しているのだ訴える。