没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
開店してから十分と経たないうちに数回ドアベルが鳴る音か聞こえてきた。ショーウィンドウの飾り付けを可愛くしたことが功を奏したのか、やって来たのは年頃の女の子たちだった。
「いらっしゃいませ。よろしければこちらのフィナンシェをお召し上がりください。味はプレーンにココア、ストロベリーの三種類ですよう」
「え? 食べても良いの?」
「はい。他のお店では見かけないですが我がパティスリーではお菓子の美味しさを一人でも多くのお客様に知っていただきたいので試食を行っております。どうぞ、こちらですよう」
ラナが試食用のフィナンシェのところまで女の子たちを案内をすると、彼女たちはにこにこ顔になった。
「見てみて、試食のフィナンシェの形がウサギさんよ!」
「他にもリスさんやハリネズミさんもあるわ。こんな形のフィナンシェを見るのは初めてよ!」
「可愛い~! 味もアーモンドとバターが芳ばしくて美味しいっ」
彼女たちの反応を耳にした私は確かな手応えを感じていた。
というのも、一般的なパティスリーは試食なんて行っていないし、お菓子だって味重視なところがあるから見た目はそこまでこだわっていないのだ。
補足しておくと、どこのパティスリーも芸術品の如く美しい見た目はしている。しているけど、どれもこれも定番な形ばかりで退屈してしまう。要は個性がないのだ。