没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
何だかグレーな気がしないでもないけれど、それなら法の目をかいくぐることができる。
「……じゃあ名目上はお手伝いってことで。給金の代わりに好きなお菓子を何個か選んで持って帰って。あっ、だけどお手伝いするにあたってご両親の許可が必要か……」
「お嬢様がそれでいいのなら是非やらせてっ!」
食い気味に返事をしてくるネル君は私の両手を掴むとにこにこと笑顔になる。
ぎゅうぎゅうと手を握って嬉しそうにしている彼を見ていると、もうこの笑顔を全力で守りたいという考えしか浮かんでこない。
「それじゃあ決まりってことで。早速明日からよろしくね」
「はい!」
「話もまとまったことだし、お茶でも飲んで帰らない? もちろんお菓子も用意するわ」
ネル君は『お菓子』という言葉を聞いて顔を輝かせる。その眩しい笑顔に私は口元を押さえて顔を背けた。
――うっ、ずっと見ていたいこの笑顔。
私は可愛いネル君のために厨房へ一旦下がると、明日販売するお菓子の中からどれを持って行こうかと吟味するのだった。