没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
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無事に接客が終わってイートインスペースに戻るとネル君の姿も置いていたティーカップもどこにもなかった。厨房に入るとお盆にストックのお菓子をのせ終えたラナが店内へと歩き出そうとしていた。
「お嬢様、接客してくださってありがとうございます。厨房まで楽しげなお話が聞こえていましたよう。作り手だけあってお嬢様の説明は分かりやすくて勉強になりましたっ」
「お菓子について熱弁していただけだから、私の接客はあまり参考にしないでちょうだい。だけど、たまの接客も良いものね。……ところでネル君は?」
「ネル君なら上がる時間になったので帰って行きましたよう。偉いですよねえ、ちゃんと使った食器を片付けて帰ったんですよう」
食器棚を見ると、ネル君に出していたティーカップが並んでいる。
「……そう。帰ってしまったのね」
私は少しだけ残念な気持ちになった。
いつもネル君のお手伝いが終わると二人きりで話をしていたのに、今日はそれが叶わなかった。
――接客が終わるまで待っていて欲しかったわけじゃないけど、一言帰るって言ってくれても良かったのに。
何も言われないままネル君が帰ってしまったのはちょっぴり寂しい。それに今日は充分に二人きりで話ができなかったのも重なって私はネル君不足に陥っていた。
しょんぼりとしていると、ラナがくすくすと笑う。
「帰り際のネル君は寂しがっていたので明日はいっぱい構ってあげてくださいね。……その方がお嬢様の健康にも良さそうですよう」
「も、もうっ。ラナったら!」
ラナは私を揶揄うと店内へと戻っていく。
私は唇を尖らせた後、あることを心に決めた。