没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「こんにちは、シュゼットお嬢様」
「ネル君!?」
声を上げる私はネル君のもとに駆け寄った。
傘も差さずにやって来た私にネル君はびっくりしてネル君は目を見開く。
「お嬢様、風邪をひいてしまいます!」
ネル君は私に雨が当たらないように傘を持ち上げてくれる。背伸びをしてやっと私の頭上に傘がかかるのだが、大人用の大きな傘は風に煽られて華奢なネル君の腕では支えることができない。傘はすぐに真上から横向きに倒れてしまった。
風の抵抗を受けながらも傘を起こそうとするネル君の健気な姿に私は不謹慎ながらもきゅんとしてしまう。
――嗚呼、どうしてこんなにも可愛いのかしら!?
私は傘を持つネル君の手に自分の手を重ねると風で煽られて横向きになってしまっている傘を真上に向ける。
「ありがとう。私が持つから一緒に中に入りましょう」
「……はい」
大人な振る舞いをしたいネル君は自分の身体が子供であることを自覚してしょんぼりと肩を落とした。
最後まで傘を差して私を厨房の方まで連れて行きたかったのだろう。それが叶わなくて悄然としてしまっている。
俯くネル君に、私は同じ目線になるように屈む。
「傘に入れてくれてありがとう。大きな傘のお陰で二人で入っても問題ないし濡れずに済むわね」
慰めるように声を掛けると俯いているネル君からぽそりと呟く声が聞こえてくる。