没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「……お嬢様が入って良い傘は僕の傘だけ。だから僕が傘を差したかったのに」
私は目を細めるとネル君に答えた。
「ええ。私が入るのはネル君の傘だけにするわ。だから雨が降った時はよろしくね?」
「本当ですか?」
ネル君は顔を上げると空いている方の私の手を掴んで自身の頬にぴたりとくっつける。そしてうっとりとした表情を浮かべてと頬ずりしてきた。
「僕も同じ。僕の差す傘に入って良いのはお嬢様ただ一人だけ。……約束、ですよ?」
熱を孕んだような声でネル君は囁いてくる。
真っ直ぐ向けられる紺青色の瞳から目が逸らせない。
「……っ」
私は美少年の懇願の破壊力に堪らず息を呑んだ。