没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「ラナったら、変に気を遣わなくても良かったのに……」
残された私は肩を竦める。
ラナは早く借金を完済して欲しくてああ言ってくれたのだろう。その気持ちは非常にありがたいけれど、冷たい雨風に当たって風邪をひかれたら大変だ。
ラナが帰ってきたら身体の芯まで温まるジンジャーと喉に良いハチミツ入りの温かいハーブティーを淹れてあげよう。
「――さて、そうと決まればラナが帰ってくるまでに閉店作業と売り上げの確認をしておかないと」
まずは閉店作業に取り掛かる。
今日はお客様が少なかったのでいつもより多めにケーキが余ってしまった。
「結構余っちゃったから屋敷に持ち帰って皆に食べてもらおうかしら」
現在キュール家で働いている使用人はラナを含めて七人、家族は私を含めた四人の計十一人だ。
ケーキは十二個余っているので一人一個行き渡らせることができる。
カウンターのレジ後ろの棚には、包装紙や折り畳まれたケーキ用の箱がサイズごとに並んでいる。私は一番大きな箱を手に取ると組み立て始めた。
手を動かしているとチリンチリンとドアベルの鳴る音が聞こえ、店内に雨の匂いが入ってくる。
私が顔を上げると、そこには雨で全身がずぶ濡れになった青年が立っていた。