没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
「……すみません。まだお店はやっていますか?」
「は、はい。やっていますよ」
「間に合ったなら良かった。ここのケーキを食べたいんです。そこのショーケースにある中でおすすめを一つ用意してもらえるかな」
「かしこまりました。…………ですがお客様」
「はい?」
「ケーキを召し上げる前にその格好をなんとかしてくださいっ!!」
自分の格好に無頓着な青年は私の指摘に対してきょとんとした表情で首を傾げる。
ケーキを注文してくれるのはありがたいけれど、無自覚に色気を垂れ流されては堪ったものじゃない。
――もうっ! こんなの逆セクハラよっ!
耐えきれなくなった私は厨房から大判のタオルを持ってきて、青年の前に進み出ると王族に献上するように顔を伏せて頭上にタオルを掲げる。
自分の格好が私を困らせていることにやっと気がついた青年はすまなさそうに頬を掻いた。
「なるほど。僕がこんな格好だから困っているんだね。それなら遠慮なくこのタオルを使わせてもらおうかな」
青年はタオルを受け取ると濡れた頭や顔を拭いてからシャツの上に羽織る。
やっとまともに見られるようになったので私は安堵の息を漏らすとケーキとお茶の準備を始めた。