没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 今回のことは氷山の一角にすぎず、目の前の青年と同じように私のお菓子を食べたいと思ってくれている男性のお客様がいるかもしれない。
 お店を閉めたら早急に店内の飾り付けを変えなくては。
 私が真剣に思案していると青年が人差し指を立ててある提案をしてきた。

「それなら、毎日おすすめのケーキを一つ選んで取り置きしてもらえるかな? 閉店の三十分位前に食べに来るから」
「毎日ですか?」
「うん、毎日。僕はここのお菓子がとても気に入ってるから。…………ダメ、かな?」

 席に着いている青年は覗き込むような形で私に尋ねてくる。キラキラ輝く紺青色の双眸に見つめられて、私はうぅっと小さな呻き声を漏らした。

 容姿端麗な美青年の懇願ほど反則なものはない。
 断れるだけの技量を持ち合わせていない私は完敗してしまい、魔法にでも掛かってしまったかのように首を縦に振ってしまう。

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