没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~
腕を組むアルは王宮二階の窓からその景色をぼんやりと眺めていた。
他国からも絶賛されている美景だがさしあたり興味はない。室内に視線を戻して自分の机の上を見るとそこには過去の管理台帳や記録書などの様々なファイルが置かれている。
「さて、今日の仕事を終わらせてしまおうかな」
席についたアルは目にも留まらぬ速さでそれらに目を通し、不審な点がないことを確認すると机の横の荷台の上に置いていく。
室内はアルしかおらず、机もアルが使う一人分しか用意されていない。ここは王命によって急遽設けられた部屋で、数人の関係者にしかその存在を知られていない場所だった。
その理由はアルがもともと王宮で働く人間ではない――ひいてはメルゼス国の国民ではないことが起因する。
あたかも王宮に勤めている文官とカモフラージュするために、アルの腕には総務部を表す緑色の腕章がはめられている。総務部は業務が細分化されているので同じ部の人間がアルを見ても、自分とは違う場所で業務に従事していると認識してくれるのだ。